ポッキーゲーム

「人間は1日100グラムの糖質が必要なんですよ!」
「テメー、人間は肝臓でぶどう糖を作れるって知らねーのか!」
泥門デビルバッツの部室に、2人の声が響き渡った。

クリスマスボウルの後、ヒル魔とセナは付き合い始めた。
特に発表されたわけではないが、泥門デビルバッツの面々はそれを肌で感じていた。
ヒルマとセナがお互いに惹かれていることは、何となく伝わっていた。
だがここへ来て、劇的に2人の雰囲気が変わったのだ。

おそらくクリスマスボウルが終わったらと、2人の間で約束が成されていたのだろう。
想いを封印して、クリスマスボウルに臨んだのは、大したものだと思う。
だがその反動たるや、部員たちを震撼させるには十分だった。
とにかくラブラブで、当てられっぱなしなのだ。

そんな2人が、放課後の部室で何やら言い争いをしている。
少し遅れて部室に現れたモン太こと雷門太郎は、首を捻った。
いったい何の話をしているのか?

「どうしたんだよ?」
モン太はセナに声をかける。
するとセナは「聞いてよ!モン太!!」と身を乗り出して来た。
セナの親友を自負するモン太は「何でも聞くぞ!」と胸を張った。

「ヒル魔さんがポッキーゲームをしようって言い出したんだけど!見てよ!」
「は!?」
セナが憤慨しながら、カジノテーブルの上を指さす。
そこに置かれたのは、お馴染みのパッケージのお菓子。
だがポッキーではなく、プリッツだった。

「これじゃポッキーゲームじゃない!」
「うるせぇ!俺はチョコなんて甘くせーものは食わねーんだよ!」
「それじゃポッキーゲームじゃないでしょ!」
「ルールがポッキーゲームなら、問題ねーだろ!」

2人の言い争いを聞いていたモン太は、頭がクラクラした。
どうやら合コンなどで定番のあのゲームをやろうとしているらしい。
だがヒル魔は甘いものが大嫌いなので、ポッキーのチョコの部分を食べたくない。
そこでプリッツで代用しようとして、セナがそれに文句を言っているということらしい。

なるほど、そういうことが。
納得しかけたモン太だったが、すぐに「いやいや」と首を振った。
高校生とは思えない、純情可憐なセナが、ポッキーゲーム?
甘いものが一切ダメなヒル魔が、ポッキーをプリッツに置き換えてまで、ポッキーゲーム?
そもそもどうして部室で?
考え始めると、もういろいろツッコミどころばかりなのだ。

モン太がもう少し大人だったら、理解できただろう。
セナはもちろんのこと、ヒル魔だって、本気の恋愛は初めてなのだ。
イチャイチャするのは楽しいし、恋人っぽいことは何でもやりたい。
そしてこうして部室でそれをすることで、相手が自分のものだとアピールしたいのだ。
同じく恋愛初心者のモン太はさすがにそこまでは理解できない。
だからアメフトをしているときの2人との落差に、ただただ困惑するのだ。

「ヒル魔さん、諦めてポッキー食べて下さい!」
「テメーこそ、諦めてプリッツ食え!」
2人の賑やかな声が部室に響き渡る。
バカップルの破壊力、恐るべし。
だけど2人が幸せなのだというのはわかるから、こうして静かに見守っている。

【終】
1/1ページ