Guidepost
スピードを落とさないブレーキ。
急に歩幅を縮めて、一歩でジグザグに踏み切る。。。
鮮やかに何人もの敵選手を抜き去ったセナはボールをゴールに蹴り込んだ。
午後最初の授業はラッキーなことに自習だった。
ヒル魔は机の上にその長い足を乗り上げさせて愛用のノートパソコンを叩いていた。
時折校庭で歓声が起こったが無視。今は次の試合の戦略を練ることに忙しい。だが。
「ねぇねぇヒル魔ぁ、すごいよ~」
腐れ縁の巨体のラインマンがドスドスとヒル魔の横にやってきて、声をあげた。
ヒル魔は校庭に目を向ける。1年生の体育の授業。サッカーだ。
見慣れたピョコピョコした髪型の小さな身体が次々とクラスメイトを抜いていく。
「あ、の、糞チビ~!!」
窓際に仁王立ちになり、青筋を立てて怒るヒル魔に栗田はギョッとする。
「ヒ、ヒル魔?」
「あれじゃ、正体バレちまうだろうが!」
栗田も「あ」と声を上げた。
確かにあれはアイシールド21のステップそのものだ。
何も知らないまもりも窓からセナを見ていた。
「セナってサッカー、あんなに上手かったのね。でもあの動き、どこかで。。。」
栗田にはヒル魔の堪忍袋の緒がプチリと切れる音が聞こえた気がした。
そしてその巨体を恐怖で震わせ、セナの無事を祈った。
当のセナは完全に楽しんでいた。
ボールを蹴りながら進むこの感覚。デスマーチの記憶が蘇る。
あの熱い夏の日々。どこまで続くのかわからない道をただ石を蹴りながら進んだ。
道標は重い銃器を抱えて、大きな声でルートを指示していた金色の髪のあの人。
あの人が走るたびに揺れるピアスから照り返す夕陽まではっきり思い出すことが出来る。
ヒル魔さん。ラスベガスに着くまでに心の中で何度呼びかけただろう。
セナは今またヒル魔の後姿の幻影に呼びかけ、今日何度目かのシュートを決めた。
「セナ」
シュートを決めたセナと同じチームを組んでいた十文字が背後から声をかけた。
「何?十文字くん」
息を弾ませながらも、笑顔でセナが振り返る。
「おまえ、いい加減にしておかないとバレるぜ。」
「え?」
慌てて周りを見回したセナは、クラスメイトから賞賛と驚嘆の視線に気づく。
「それにあれ。」
十文字が指差したのは2年生の教室。
鬼のような形相の金色の髪の悪魔がハンドガンを構えて、セナに向けている。
「ヒィィィィ」
ようやくセナは自分のミスに気づいた。
そこから先は正に条件反射。教室のヒル魔を見上げてペコペコと頭を下げ続けた。
「ったく、何やってんだか」
十文字は一人で悪態をついた。面白くない気分だった。
セナが十文字の横を走りぬける一瞬、見えたのだ。
セナの口が一つの言葉を紡いだのを。
それは声にはなっていなかったけれど、セナは確かにその名を呼んだ。
セナにとってヒル魔は絶対的な存在。分の悪い勝負だとはわかっていたけれど。
十文字はこちらを見下ろしている金髪の悪魔を見上げ、挑発的な視線を送った。
あんな風に走っていたのか、とヒル魔は満足げに目を細めた。
あのアメリカを走りぬいた日々。ヒル魔は常にセナの気配や息遣いを背後に感じていた。
たまにセナがヒル魔を呼ぶ声が聞こえたような気さえした。何度も振り返りたくなった。
でも背後を走るセナの姿はついに目にすることはできなかったのだ。
迂闊に体育の授業なんかで走りを披露したことは叱責に値する。
でもあの走りが見られたのだから許してやるか。
何より今、あの時聞こえていたセナの声がまた聞こえたような気さえしたのだから。
ふと見ると、こちらに向かってオロオロと頭を下げるセナの背後に。
自分を睨み上げている十文字の姿を見つけた。
絶対に負けるつもりはねぇ。アイツは俺の。。。
ヒル魔は十文字の視線を受け止め、不敵に笑った。
【終】
急に歩幅を縮めて、一歩でジグザグに踏み切る。。。
鮮やかに何人もの敵選手を抜き去ったセナはボールをゴールに蹴り込んだ。
午後最初の授業はラッキーなことに自習だった。
ヒル魔は机の上にその長い足を乗り上げさせて愛用のノートパソコンを叩いていた。
時折校庭で歓声が起こったが無視。今は次の試合の戦略を練ることに忙しい。だが。
「ねぇねぇヒル魔ぁ、すごいよ~」
腐れ縁の巨体のラインマンがドスドスとヒル魔の横にやってきて、声をあげた。
ヒル魔は校庭に目を向ける。1年生の体育の授業。サッカーだ。
見慣れたピョコピョコした髪型の小さな身体が次々とクラスメイトを抜いていく。
「あ、の、糞チビ~!!」
窓際に仁王立ちになり、青筋を立てて怒るヒル魔に栗田はギョッとする。
「ヒ、ヒル魔?」
「あれじゃ、正体バレちまうだろうが!」
栗田も「あ」と声を上げた。
確かにあれはアイシールド21のステップそのものだ。
何も知らないまもりも窓からセナを見ていた。
「セナってサッカー、あんなに上手かったのね。でもあの動き、どこかで。。。」
栗田にはヒル魔の堪忍袋の緒がプチリと切れる音が聞こえた気がした。
そしてその巨体を恐怖で震わせ、セナの無事を祈った。
当のセナは完全に楽しんでいた。
ボールを蹴りながら進むこの感覚。デスマーチの記憶が蘇る。
あの熱い夏の日々。どこまで続くのかわからない道をただ石を蹴りながら進んだ。
道標は重い銃器を抱えて、大きな声でルートを指示していた金色の髪のあの人。
あの人が走るたびに揺れるピアスから照り返す夕陽まではっきり思い出すことが出来る。
ヒル魔さん。ラスベガスに着くまでに心の中で何度呼びかけただろう。
セナは今またヒル魔の後姿の幻影に呼びかけ、今日何度目かのシュートを決めた。
「セナ」
シュートを決めたセナと同じチームを組んでいた十文字が背後から声をかけた。
「何?十文字くん」
息を弾ませながらも、笑顔でセナが振り返る。
「おまえ、いい加減にしておかないとバレるぜ。」
「え?」
慌てて周りを見回したセナは、クラスメイトから賞賛と驚嘆の視線に気づく。
「それにあれ。」
十文字が指差したのは2年生の教室。
鬼のような形相の金色の髪の悪魔がハンドガンを構えて、セナに向けている。
「ヒィィィィ」
ようやくセナは自分のミスに気づいた。
そこから先は正に条件反射。教室のヒル魔を見上げてペコペコと頭を下げ続けた。
「ったく、何やってんだか」
十文字は一人で悪態をついた。面白くない気分だった。
セナが十文字の横を走りぬける一瞬、見えたのだ。
セナの口が一つの言葉を紡いだのを。
それは声にはなっていなかったけれど、セナは確かにその名を呼んだ。
セナにとってヒル魔は絶対的な存在。分の悪い勝負だとはわかっていたけれど。
十文字はこちらを見下ろしている金髪の悪魔を見上げ、挑発的な視線を送った。
あんな風に走っていたのか、とヒル魔は満足げに目を細めた。
あのアメリカを走りぬいた日々。ヒル魔は常にセナの気配や息遣いを背後に感じていた。
たまにセナがヒル魔を呼ぶ声が聞こえたような気さえした。何度も振り返りたくなった。
でも背後を走るセナの姿はついに目にすることはできなかったのだ。
迂闊に体育の授業なんかで走りを披露したことは叱責に値する。
でもあの走りが見られたのだから許してやるか。
何より今、あの時聞こえていたセナの声がまた聞こえたような気さえしたのだから。
ふと見ると、こちらに向かってオロオロと頭を下げるセナの背後に。
自分を睨み上げている十文字の姿を見つけた。
絶対に負けるつもりはねぇ。アイツは俺の。。。
ヒル魔は十文字の視線を受け止め、不敵に笑った。
【終】
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