ピンチはチャンス

「そいつを返してもらおうか。」
ヒル魔は嘲るような笑みを浮かべて、言った。
無造作にかまえた銃口の先には、こちらを向いて立っているセナ。
ヒル魔が対峙する相手は、その背後でセナを銃弾の盾にするように立つ男だ。
セナは後手に手錠をかけられた上、首元にナイフを突きつけられている。

「返して欲しければ、俺の要求を聞け。」
男もまた薄笑いを浮かべていた。
男はヒル魔と同じ、最京大学のアメフト部員で2年先輩にあたる人物だ。
ヒル魔が最京大学のアメフト部に入ったことで、QBの地位を奪われた。
もうすぐ男にとって、大学最後の試合がある。
せめてその試合で、フィールドに立ちたかった。
だが最京大学は、徹底的に勝ちにこだわるチーム。
引退する先輩に花を持たせるなどという発想はない。
だから正QBのヒル魔を引きずりおろすために、男はセナを拉致するという手段を取ったのだ。

ヒル魔の恋人は、炎馬大学のエース。
男はそんな噂を聞いて、半信半疑な思いだった。
確かにこの少年のようなRBは可愛いが、男が男を愛するとは。
だがヒル魔は呼び出しに応じて、真夜中の廃屋にやって来た。
ヒル魔はこの青年を大事に思っているのは、間違いなさそうだ。
これならばヒル魔は、自分の言いなりになるだろう。
男はニンマリと頬を緩ませながら、勝利を予感していた。
1/4ページ