ノートルダムより愛をこめて

携帯電話がメールの着信音を響かせた。
1人自室でノートパソコンを叩いていたヒル魔は手を止めた。
他の着信音なら。もしくは他の電話機なら。
ヒル魔が手を止めることなどなかっただろう。
だがこの着信音は、ヒル魔が愛する少年からのメールだ。

お誕生日、おめでとうございます。
メールのタイトルを見たヒル魔は、パソコンの画面を見て時間を確認した。
ちょうど日付が変わって、ヒル魔は10代最後の誕生日を迎えたのだ。
ヒル魔は顔を顰めながら、再び携帯電話の画面に視線を戻した。

ヒル魔は昔から誕生日というものを一切公表していない。
別にそれに深い意味などなかった。
タダで自分の情報を人に教えても何の得もない。
それならば隠しておいて、少しでも相手に不可思議な印象を与えられればよい。

恋人であるセナに隠している理由は、当然それとは違う理由だ。
何度聞かれても「さぁな」と話をはぐらかすと、セナはその度に拗ねて口を尖らせる。
その様子が可愛くて、ヒル魔はその日を教えなかったのだ。
そんな理由なのだからセナが知ってしまったところで、別に大した話ではない。
問題はセナがどうやってそれを知ったか、だ。
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