可愛い後輩

どうしたんだ、厳?と言われて。
一瞬ハッとしたムサシだったが、すぐに何でもねぇよと笑った。
アメフト部に復帰して、父の病室を見舞う時間も減ってしまった。
そんな貴重な時間なのに、考え事をしててぼんやりしてしまった。
大丈夫か、と病床の父親に聞かれて、何とも情けない気分になる。
微妙に気まずい病室で能天気に「こんにちは」と顔を出したのは、考え事の中心人物、セナだった。

先程までヒル魔と2人で、対神龍寺戦の打ち合わせをしていた。
ヒル魔の指示は何とも恐ろしく薄情なものだった。
最後のタイムアウトの時、セナの足は壊れる寸前まで酷使されているはずだから。
そのセナを試合に出し続けることを止める芝居をして欲しいというものだった。
絶句してしまったムサシに対して、ヒル魔は至って冷静に「頼むぜ、糞ジジィ」と笑った。

ムサシはセナを気に入っていた。
「強くなったらアメフト部に戻ってくれますか?」
「ムサシさん自身はアメフトやりたくないんですか?」
まっすぐな目で、恥ずかしいセリフで、熱い思いをぶつけてきた。
ひたむきで純真で可愛い後輩。ヒル魔にとっても同じだろう。
むしろそれ以上の大事な存在の筈だ。
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