Sequelae

ヒル魔は、夜中に目を覚ました。
そして自分の左手がしっかりと右腕を掴んでいることに気づいて、顔を顰める。
右腕には痺れるような鈍痛。この寒さのせいだろう。
だから右腕をかばうように少し身体を丸めて眠っていたのだ。
思わず1つ舌打ちをして、隣で眠っていたはずのセナがいないことに気がついた。

ヒル魔が右腕を骨折したのは、もう何年も前のことだ。
もちろんとっくに完治している。
だがこんな寒い冬の日には、ときどき疼くように痛む。
どうやら冷えて血行が悪くなると、調子が悪くなるらしい。
練習中ならば、どれほど寒くても、身体が温まるにつれて痛みがなくなる。
だからヒル魔のごく親しい人間でも、このことを知る者はいない。
あの敏腕マネージャー姉崎まもりにさえ、ヒル魔は見事に隠し通していた。
だから不覚にも、セナに隠し通すことなど容易い事だと思い込んでいた。

セナがなかなか戻ってこない。
2人で暮らしているこのマンションには、一応セナの部屋もある。
だが夜は必ずセナはヒル魔の部屋で眠る。
どうしたのだろう。
まさか用足しにでも立って、そのまま倒れてしまっているのか。
激しく求めてしまい、さんざんセナを抱きつくしたヒル魔には思い当たる節が山ほどある。
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