握手の続き

セナ、と背後から名前を呼ばれ、肩を叩かれた。
振り返ったセナの笑顔はニタニタと笑う相手の顔を見て凍りついた。

そこに立っている4人組。
セナを中学時代に散々パシリにした同級生たちだった。
セナの肩を叩いたのがリーダー格で、特にセナを念入りに苛めていた。
アイシールド21かぁ、偉くなったんだなぁセナくんは。
4人はセナを取り囲むようにして、その輪をジリジリと縮めてきた。

セナは冷静に頭の中で逃走用のデイライトを思い描いた。
4人とまともに喧嘩などしてもやられてしまうのはわかりきっている。
だが不意をついて逃げるのは可能だろう。

よし!と気合を入れて走り出そうとしたその瞬間。
背後からもう一人別の男が現れた。
そして走り出そうとしたセナの前方に回りこんで、足を引っ掛ける。
あまりの素早さに反応できない。
セナは思い切りその場に前のめりに転倒した。

阿含さん。リーダー格の少年がその男の名を呼んだ。
セナは転倒したまま、ドレッドヘアのその男を見上げた。
何の偶然か、この期におよんで現れた男はセナにとって因縁の人物。
ここへ来て「神速のインパルス」が加わるなんて。
しかもその能力を発揮して、セナを足止めするなんて。
これでは逃走もむずかしいとセナは絶望的な気分になる。


このチビは俺の知り合いだ。阿含が4人に告げる。
そして何やら小声でボソボソとリーダー格の少年に耳打ちする。
すると4人は何事かを相談した後、引きつった笑いを浮かべて。
それじゃあと阿含にペコペコと頭を下げて立ち去っていった。

不機嫌そうにチッと舌打ちした阿含がセナに向かって右手を差し伸べた。
セナは転倒したまま、その手をじっと見た。
まさか、助けてくれた?あの阿含さんが。
阿含は顎をしゃくるようにして、セナに動作を促す。

セナは阿含の右手に自分の右手を重ねた。
ありがとうございました、と阿含に礼を言いながら。
阿含がその手を掴んでぐいとセナを引き上げる。
つまんねぇヤツにやられんじゃねぇぞ。俺とまた当たるまではな。
吐き捨てるようにそう告げて、阿含はさっさとセナに背を向けた。

これって。セナは立ち去っていく阿含の後ろ姿を見ながら思う。
神龍寺戦の後、阿含は握手を求めたセナに応じてくれなかった。
死力を尽くして戦ったのに、ちょっと残念だと思ったのだ。
もしかして今、挨拶してくれたって思っていいのかな。
セナの視線の先で。阿含のドレッドヘアが揺れている。

【終】
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