コードネーム

ビーチフットのあのシーンからの妄想。キッドさんは多分あの時気がついたんじゃないかなと思います。

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即席ビーチフットチーム、デビルガンマンズは何とか優勝を果たした。
言いだしっぺの泥門の主務の少年がホッと胸を撫で下ろしている。
そしてキッドに駆け寄って来て頭を下げた。

「ありがとうございました」
「いやいや、こちらこそ」
キッドは笑いながら、おどけた仕草で一礼を返した。
二人はなんとなくそのまま砂浜に並んで座り、話をし始めた。

「キッドさんってもちろん本名じゃないですよね?」
「まぁねぇ」
「コードネームみたいなものですか?」
「そうだねぇ」
キッドはのらりくらりと答える。
もしかしてヒル魔の差し金で、自分から何かを引き出す作戦なのか。
一瞬そう思ったが、すぐにその考えを打ち消した。
子供子供した少年に、そんな策略は感じられない。

「本名でなくてコードネームを使うのって淋しいと思ったことないですか?」
まっすぐな瞳、ストレートな質問。キッドは一瞬返事に詰まった。
一緒にチームを組んでいて容易く見抜くことが出来た。
この少年の見事な脚力。あのヒル魔がこの足を放っておくはずなどない。
この主務と名乗る小さな少年こそアイシールド21なのだと。
この少年は自分の本名でフィールドに立てないことに何を感じているのだろう。


「う~ん、淋しくはないなぁ。自分で決めたことだからね。」
「そっかぁ。。。そうですよね。決めるのは自分ですよね。」
少年はニッコリとキッドに笑いかけて、立ち上がった。
「ほんとにありがとうございました。楽しかったです。」
笑顔にドキリとしたキッドを置き去りに、少年はチームメイトの方へ走っていく。
あの少年もキッドとは別の理由で、本名と呼称の狭間で悩んでいる。
でも今、適当に答えた自分の言葉に何かの答えを見つけたようだ。
では自分はどうだろうとキッドは思う。
淋しくないかと言われて即答できなかった。そして何よりあんな風には笑えない。
でも。決めるのは自分だ。自分でそう答えたではないか。

キッドは背後に気配を感じて、振り返った。
ヒル魔が仁王立ちでこちらを見下ろしている。
「あの子のことは黙ってるからさ、俺にもかまわないでよ。」
あの少年のコードネームのことも。ヒル魔が少年を見るときの熱い視線も。
俺の本名と一緒に秘密にしておこうよ。

キッドも立ち上がって背中越しにヒル魔に手を振りながら、監督と鉄馬の方へ歩いていく。
ヒル魔はキッドの後姿を見送りながら「ケッ」と不機嫌に喉を鳴らした。

【終】
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