あとの祭り
あとの祭り。
セナはしみじみとその言葉の意味を噛みしめた。
栗田の家であるお寺でお寿司をご馳走になっていた。
そこへ何故かNASAエイリアンズのメンバーがやってきた。
いつの間にか酒が入った狂乱の宴と化して。
そして今、動物公園の中で呆然としている。
未成年の飲酒、高速道路を暴走、動物公園の正面玄関を突破。
バレたら試合の出場辞退だってあり得る。
そして二日酔いの代表的症状である、頭痛と吐き気。
飲み慣れない酒など飲んだ代償だ。
極めつけは財布も携帯電話も栗田宅に置き忘れている。
数え上げたらキリがないほど、悪いことばかりだった。
横には鼻歌を歌いながら「ドゲザ」の練習を繰り返すパンサー。
やはり体力のみならず体質もパンサーが上なのだ。
今の状況では無重力の走り以上に羨ましい。
守衛の目を盗んで、何とか動物公園の外に出た。
歩いて帰るしかない、と何とかカタコトの英語でパンサーに言う。
パンサーはニコニコと「OK」と答えた瞬間。
二人の隣に、ハイスピードで走ってきた軽トラックが停まった。
運転席にムサシ。
後ろの荷台ではパンサーと同乗してきたエイリアンズのワットやホーマーが騒いでいた。
助手席にはヒル魔とセナ。
二日酔いのセナはヒル魔にもたれかかって「気持ち悪い~」と死にそうな声を出している。
酒くせぇな、とムサシが。手間かけやがって、とヒル魔が。
交互にセナに文句を言い、とにもかくにも一行は帰路を辿っている。
無免許なんだから捕まったら責任取れよ、とムサシが今度はヒル魔に文句を言った。
大丈夫だ、というヒル魔の傍らには黒い手帳と銃器類。
半分まだ酔いが残っているセナは誰にともなく喋っている。
パンサーくんの走りってすごいんですよ。僕はあんな風には走れないです。
じゃあ負けるじゃねぇか、と言うヒル魔に、セナは答える。
僕の走りで勝つんです。パンサーくんにも。進さんにも。
力なく笑うセナにヒル魔は心底呆れたという表情になった。
今度こんな騒ぎ起こしたら、タダじゃおかねぇぞ!
ヒル魔の怒りの声は無駄だった。
セナはスゥスゥと寝息を立てて、あっという間に眠ってしまったのだ。
車の揺れにあわせてセナの身体がガクンと揺れて、ずるずると崩れた。
ヒル魔は諦めたようにはぁぁとため息をついて、セナの身体を胸の中に抱え込んだ。
セナは何の夢を見ているのか、幸せそうな顔で寝言を繰り返している。
ヒル魔さん、クリスマスボウルに、ムサシさんも。
ムサシはそんな単語の断片を聞きながら、苦笑する。
ムサシは横目でチラリとヒル魔とセナを見た。
ヒル魔が黙って消えたセナを見つけるのは大変だったはずだ。
情報と黒い手帳と奴隷を駆使したのだろう。
それにムサシに車を出させるときのセリフ。
悪りーけど、車出してもらえねぇか?
いつもは命令口調のヒル魔がムサシに「お願い」したのだ。
これほどヒル魔を翻弄するヤツは多分この世界でたった1人。このチビだけだ。
後ろの荷台が騒がしい。かなりの大声の英語の会話が聞こえてくる。
土下座のやり方がどうとか言ってるぜ。ヒル魔が眉根を寄せながら通訳した。
あ?土下座?とムサシが怪訝な声で聞き返す。
どいつもこいつも何やってんだか、ヒル魔がうんざりした様子で言った。
でも。そんな言葉とは裏腹の優しい手付きでセナの髪を撫でる。
可愛くてたまらねぇんだろ、そのチビが。
ムサシは何も気がつかない振りで、真っ直ぐ前を見ながら軽トラを操る。
その目の端で朝陽を照り返したヒル魔のピアスが光った。
【終】
セナはしみじみとその言葉の意味を噛みしめた。
栗田の家であるお寺でお寿司をご馳走になっていた。
そこへ何故かNASAエイリアンズのメンバーがやってきた。
いつの間にか酒が入った狂乱の宴と化して。
そして今、動物公園の中で呆然としている。
未成年の飲酒、高速道路を暴走、動物公園の正面玄関を突破。
バレたら試合の出場辞退だってあり得る。
そして二日酔いの代表的症状である、頭痛と吐き気。
飲み慣れない酒など飲んだ代償だ。
極めつけは財布も携帯電話も栗田宅に置き忘れている。
数え上げたらキリがないほど、悪いことばかりだった。
横には鼻歌を歌いながら「ドゲザ」の練習を繰り返すパンサー。
やはり体力のみならず体質もパンサーが上なのだ。
今の状況では無重力の走り以上に羨ましい。
守衛の目を盗んで、何とか動物公園の外に出た。
歩いて帰るしかない、と何とかカタコトの英語でパンサーに言う。
パンサーはニコニコと「OK」と答えた瞬間。
二人の隣に、ハイスピードで走ってきた軽トラックが停まった。
運転席にムサシ。
後ろの荷台ではパンサーと同乗してきたエイリアンズのワットやホーマーが騒いでいた。
助手席にはヒル魔とセナ。
二日酔いのセナはヒル魔にもたれかかって「気持ち悪い~」と死にそうな声を出している。
酒くせぇな、とムサシが。手間かけやがって、とヒル魔が。
交互にセナに文句を言い、とにもかくにも一行は帰路を辿っている。
無免許なんだから捕まったら責任取れよ、とムサシが今度はヒル魔に文句を言った。
大丈夫だ、というヒル魔の傍らには黒い手帳と銃器類。
半分まだ酔いが残っているセナは誰にともなく喋っている。
パンサーくんの走りってすごいんですよ。僕はあんな風には走れないです。
じゃあ負けるじゃねぇか、と言うヒル魔に、セナは答える。
僕の走りで勝つんです。パンサーくんにも。進さんにも。
力なく笑うセナにヒル魔は心底呆れたという表情になった。
今度こんな騒ぎ起こしたら、タダじゃおかねぇぞ!
ヒル魔の怒りの声は無駄だった。
セナはスゥスゥと寝息を立てて、あっという間に眠ってしまったのだ。
車の揺れにあわせてセナの身体がガクンと揺れて、ずるずると崩れた。
ヒル魔は諦めたようにはぁぁとため息をついて、セナの身体を胸の中に抱え込んだ。
セナは何の夢を見ているのか、幸せそうな顔で寝言を繰り返している。
ヒル魔さん、クリスマスボウルに、ムサシさんも。
ムサシはそんな単語の断片を聞きながら、苦笑する。
ムサシは横目でチラリとヒル魔とセナを見た。
ヒル魔が黙って消えたセナを見つけるのは大変だったはずだ。
情報と黒い手帳と奴隷を駆使したのだろう。
それにムサシに車を出させるときのセリフ。
悪りーけど、車出してもらえねぇか?
いつもは命令口調のヒル魔がムサシに「お願い」したのだ。
これほどヒル魔を翻弄するヤツは多分この世界でたった1人。このチビだけだ。
後ろの荷台が騒がしい。かなりの大声の英語の会話が聞こえてくる。
土下座のやり方がどうとか言ってるぜ。ヒル魔が眉根を寄せながら通訳した。
あ?土下座?とムサシが怪訝な声で聞き返す。
どいつもこいつも何やってんだか、ヒル魔がうんざりした様子で言った。
でも。そんな言葉とは裏腹の優しい手付きでセナの髪を撫でる。
可愛くてたまらねぇんだろ、そのチビが。
ムサシは何も気がつかない振りで、真っ直ぐ前を見ながら軽トラを操る。
その目の端で朝陽を照り返したヒル魔のピアスが光った。
【終】
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