デスマーチ外伝1

俺たちはトラックの荷台でへたばっていた。
トラックを押しながらアメリカを横断する。まったく馬鹿げた話だ。
でも俺は逃げることもなく、ひたすら毎日トラックを押し続けていた。
トレーナーの酔っ払いジジィが驚愕の表情で何かを見ていた。
小さな声でうわ言のように何事かを呟く。「ゴースト」と聞こえた。
酒の飲みすぎか?暑さでイカれたか?
俺は身体を起こして、溝六の視線の先を追ってみた。
そこには何故か、前方にいる筈のセナが石を蹴りながら走っていた。
期せずして俺は、のちにデビルバットゴーストと呼ばれる悪魔の走りを見たのだ。

夕食後、就寝までの僅かな自由時間。
何故かセナはトラックの後部に回り込み、車体を押していた。
サイドブレーキが引かれたトラックが動くはずはない。そもそもセナの力では動かないのだが。
俺はそのセナに近づき、何やってんだ?と聞いた。
あ、十文字くん。とセナがこちらを振り返る。
ラインの皆はどんな練習なのかなと思って。セナはそう答えてふわりと笑った。
やっぱりちょっとやっただけでも大変だ。僕なんかまだまだだな。
正直言って。トラックを押すことと、石蹴りで進むこと。
どっちがより大変かなど比較しようがない。
それでも怪我しないでね、と自分のことは棚に上げて心配するセナが。
かわいいなと思ったのが始まりだったと思う。
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