ハロウィンの夢

部室に一歩足を踏み入れて、セナは一瞬ギョッとした。
そこにあるのはジャック・オ・ランタン。ハロウィンのかぼちゃのちょうちんだ。
もっとも本物のかぼちゃではなく、プラスチック製の玩具。
クリスマスボウルを目指し、激しい練習の日々の部員たちが少しでも和めるように。
そんな思いからまもりと鈴音が用意したものだった。
ここのところ何だか体調が悪い。今日もこれから練習なのにひどく疲れている。
かぼちゃなんかに驚いてしまうのはそのせいかと、セナはため息をついた。

セナがまだかなり小さい頃。
クォーターのまもりが両親の知人のアメリカ人宅のハロウィンパーティに呼ばれた。
折角だからと言われ、セナもついて行ったのだ。
皆でちょっとした仮装をして、形ばかり「トリック、オア、トリート」と言ってお菓子をもらう。
でも幼いセナにとってはこの上なく怖いものだった。

そもそも外国人を初めて見て。それに皆ほとんど英語で喋っていて会話に入れない。
何も知識がなかったので、かぼちゃのちょうちんにひどく驚き、泣き出した。
そんなセナは、同じ年代でも大きな体躯の異国の子供たちの格好の遊び対象になってしまった。
子供たちはかぼちゃのちょうちんでセナを追い掛け回して、挙句にお菓子を取り上げて。
セナにとって初めて苛められた記憶はあのかぼちゃのお化けなのだ。
多分もっと時間が経てば、笑い話になるのかもしれない。
でも今のセナにとってはまだまだ苦い思い出だった。

いつの間にか眠ってしまったようだ。
気がつくと、セナは誰もいない部室に1人でいた。
そしてジャック・オ・ランタンがあった場所に目をやって、驚く。
先程は1つだけだったかぼちゃが数個に増えていた。
しかも頭だけだったはずなのに、かぼちゃたちには胴体も手足もあり。
その上皆セナよりも大柄だった。セナは思わず「ヒィ」と短く悲鳴をあげた。
これは子供の頃に苛められたときの記憶と同じ。でも何で?
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