エメラルドコレクター
『至急、現場に急行してくれ』
「わかった」
羽鳥は無線連絡に答えると、覆面パトカーの天井部にサイレンを乗せる。
同時にハンドルを握っていた高野が、アクセルを踏み込み加速した。
高野と羽鳥は、警視庁機動捜査隊に所属する警察官だ。
2名でペアを組んで捜査車両に乗車し、担当管轄である丸川署内をパトロールする。
そして事件や事故を目撃するか110番通報入電の無線指令を受けると、現場へ急行し初動捜査を行う。
「またエメラルドコレクターですかね?」
「そうじゃなければいいが。」
緊張感で張り詰める車内に、2人の言葉が響く。
エメラルドコレクターとは、最近丸川署内に出没している通り魔だ。
いずれも被害に遭うのは20歳前後の若い男性。
しかも小柄で童顔で一見して10代にも見えそうな男性ばかり、もう3名襲われている。
手口はスタンガンで気絶させて、持ち物を奪うのだ。
奪われるものが変わっていて、靴だったり、カバンだったり、帽子だったりする。
その全てが鮮やかな緑色のものばかりなのだ。
そこでついたあだ名が「エメラルドコレクター」となったわけだ。
今回の出動は110番通報入電によるものだ。
若い男性が路上に倒れているという。
しかも冬だというのに、上半身は薄いシャツだけという軽装らしい。
もしかして被害者が緑色のコートなどを身につけていたなら、剥ぎ取られた可能性が高い。
程なくして現場に到着した高野と羽鳥が、捜査車両を降りた。
そこには人垣ができていたが、交番勤務の制服警官がいち早く駆けつけていて、現場を保存している。
高野と羽鳥は顔見知りの制服警官に軽く手を上げて挨拶すると、その場に倒れている青年を見た。
情報通り、この寒さには不自然な薄着だ。
間違いない。エメラルドコレクターだ。
高野はそう断言してから、憂鬱な気分になった。
被害者の服装だけでなく、かわいらしい顔の青年だったのでそう思った。
だがそれが一瞬でわかるようになってしまった自分が嫌だった。
犯人の趣味などわかりたくもないし、そもそも逮捕できずに4件目の犯行を許してしまったことが悔しい。
凶暴化してますね。
羽鳥は不愉快そうに顔をしかめた。
この青年は首元にスタンガンの痕があるだけでなく、額からも出血している。
犯人に殴られたのか、もみ合った末にぶつけたのか。
とにかく被害者は重傷だ。
手口がどんどん荒っぽくなっているのは間違いない。
高野はこみ上げてくる怒りを押し隠しながら、冷静に「そうだな」と答えた。
倒れている被害者の姿が一瞬、恋人の姿にタブって見えた。
高野の恋人である青年もこんな感じのかわいらしい容姿なのだ。
恋人には、緑色の物を着たり持ったりすることを固く禁じている。
そもそも好みでないのか、彼が緑色の服や靴や鞄を持っていた記憶もないが。
救急車のサイレンが近づいてきた頃、被害者の青年がかすかに目を開けた。
自力で立ち上がることはできないようだが、呼びかけには答えられるようだ。
羽鳥が「お名前は?」と青年の耳元で、声を張り上げる。
青年がか細い声で「木佐、翔太」と答えた。
高野は驚いて、未だに朦朧としている青年の顔を見た。
どこかで聞いた名だ。
それによくよく見ると、顔にも見覚えがある。
だが高野が思い出す前に救急車が到着し、青年は担架に乗せられ、運ばれていった。
「わかった」
羽鳥は無線連絡に答えると、覆面パトカーの天井部にサイレンを乗せる。
同時にハンドルを握っていた高野が、アクセルを踏み込み加速した。
高野と羽鳥は、警視庁機動捜査隊に所属する警察官だ。
2名でペアを組んで捜査車両に乗車し、担当管轄である丸川署内をパトロールする。
そして事件や事故を目撃するか110番通報入電の無線指令を受けると、現場へ急行し初動捜査を行う。
「またエメラルドコレクターですかね?」
「そうじゃなければいいが。」
緊張感で張り詰める車内に、2人の言葉が響く。
エメラルドコレクターとは、最近丸川署内に出没している通り魔だ。
いずれも被害に遭うのは20歳前後の若い男性。
しかも小柄で童顔で一見して10代にも見えそうな男性ばかり、もう3名襲われている。
手口はスタンガンで気絶させて、持ち物を奪うのだ。
奪われるものが変わっていて、靴だったり、カバンだったり、帽子だったりする。
その全てが鮮やかな緑色のものばかりなのだ。
そこでついたあだ名が「エメラルドコレクター」となったわけだ。
今回の出動は110番通報入電によるものだ。
若い男性が路上に倒れているという。
しかも冬だというのに、上半身は薄いシャツだけという軽装らしい。
もしかして被害者が緑色のコートなどを身につけていたなら、剥ぎ取られた可能性が高い。
程なくして現場に到着した高野と羽鳥が、捜査車両を降りた。
そこには人垣ができていたが、交番勤務の制服警官がいち早く駆けつけていて、現場を保存している。
高野と羽鳥は顔見知りの制服警官に軽く手を上げて挨拶すると、その場に倒れている青年を見た。
情報通り、この寒さには不自然な薄着だ。
間違いない。エメラルドコレクターだ。
高野はそう断言してから、憂鬱な気分になった。
被害者の服装だけでなく、かわいらしい顔の青年だったのでそう思った。
だがそれが一瞬でわかるようになってしまった自分が嫌だった。
犯人の趣味などわかりたくもないし、そもそも逮捕できずに4件目の犯行を許してしまったことが悔しい。
凶暴化してますね。
羽鳥は不愉快そうに顔をしかめた。
この青年は首元にスタンガンの痕があるだけでなく、額からも出血している。
犯人に殴られたのか、もみ合った末にぶつけたのか。
とにかく被害者は重傷だ。
手口がどんどん荒っぽくなっているのは間違いない。
高野はこみ上げてくる怒りを押し隠しながら、冷静に「そうだな」と答えた。
倒れている被害者の姿が一瞬、恋人の姿にタブって見えた。
高野の恋人である青年もこんな感じのかわいらしい容姿なのだ。
恋人には、緑色の物を着たり持ったりすることを固く禁じている。
そもそも好みでないのか、彼が緑色の服や靴や鞄を持っていた記憶もないが。
救急車のサイレンが近づいてきた頃、被害者の青年がかすかに目を開けた。
自力で立ち上がることはできないようだが、呼びかけには答えられるようだ。
羽鳥が「お名前は?」と青年の耳元で、声を張り上げる。
青年がか細い声で「木佐、翔太」と答えた。
高野は驚いて、未だに朦朧としている青年の顔を見た。
どこかで聞いた名だ。
それによくよく見ると、顔にも見覚えがある。
だが高野が思い出す前に救急車が到着し、青年は担架に乗せられ、運ばれていった。
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