もしも10年前2人が別れてなかったら
だ~か~らぁ!丸川書店のエメラルド編集部だけど。
律は不機嫌にそう答える。
実際、不本意極まりないのだ。
だけど恋人のリアクションに「ハァァ!?」と固まることになるのだった。
その日、小野寺律は最悪の気分で帰宅した。
親が経営する出版社、小野寺出版。
そこで働いていた律が辞表を叩きつけたのは、少し前の事だった。
先輩社員に「七光り」だと陰口を叩かれ、正当な評価をされない。
それが気に入らなくて、出奔したのである。
そして今日は別の出版社の入社試験を受けた。
業界最大手の丸川書店だ。
今までの実績は充分、自信はあった。
だけどその結果は実に不本意なものだったのだ。
律は最悪に機嫌が悪いまま、自宅マンションに戻った。
エントランスを抜けて、エレベーターで12階へ。
だけど自室ではなく、1つ隣の部屋に向かう。
なぜなら律は恋人と同じマンションで、隣同士に住んでいるからだ。
ただいま。今日のごはん、何?
律は開口一番、そう言った。
恋人は「和食だ。煮物と焼き魚」と答える。
彼の名前は高野政宗。
高校時代に出逢った同性の恋人とは、もう10年の付き合いになる。
付き合い当初のラブラブ度はかなり減り、今は熟年夫婦の域に達していた。
何だよ。就職、ダメだったのか?
高野は律が不機嫌なのを感じ取って、そう聞いてきた。
律は「むぅ」と拗ねて、頬を膨らませる。
口に出すのも腹立たしいが、盛大にグチりたいという複雑な心境なのだ。
合格はしたけどさぁ。希望の部署じゃなかったんだよ。
律はリビングのソファにゴロリと横になった。
身だしなみに無頓着な律は、スーツにシワができてしまうという発想はない。
そして家事が得意で世話好きな高野が、律の服のアイロン掛けまでしてくれる。
文芸は無理だったのか。
高野はキッチンに立ち、夕食の準備をしながらそう言った。
煮物はそろそろ煮える頃だし、魚は今焼き始めた。
後は最後の仕上げをして、食卓に並べるだけだ。
うん。少女漫画編集だって。ふざけるなって感じだよ。
律は料理をする高野の背中に、盛大にグチった。
そう、丸川書店に合格はできた。
だけど告げられた配属先はエメラルド編集部。
少女漫画を作っている部署だったのだ。
正直、迷ったんだよ。
ことわって別の出版社を受けるか、とりあえず丸川で転属のチャンスを待つか。
結局迷って、丸川書店に入った。
律は不機嫌に眉を寄せながら、そう言った。
内心は不満タラタラ、グチが止まりそうもない。
小野寺出版では大物作家について、ヒット作も多く出した。
当然文芸に行けると思ってたのだ。
それなのに、回された先がまさかの少女漫画編集だなんて!
それでも丸川書店に入社を決めたのは、会社の大きさだった。
律の野望は、律を「七光り」と叩いていた先輩編集部員を見返してやること。
だから小野寺出版よりデカい丸川書店に入れるのは魅力だったのだ。
事あるごとに転属をアピールして、何が何でも文芸に言ってやる!
その辺りを高野に聞いてもらうつもりだったのに、返って来た反応は予想外だった。
は?お前、丸川に入ったの?そこの少女漫画って。
高野は慌てた様子でこちらを振り返った。
だけど自分のことで手一杯の律は、気付かない。
ソファで横になり、天井を睨みながら「エメラルド編集部だって」と答えた。
すると高野から「は?もう一度言ってくれ!」とまた聞き返された。
だ~か~らぁ!丸川書店のエメラルド編集部だけど。
律は何度も聞かれ、不機嫌を倍増させながら、そう答えた。
すると高野があろうことか、とんでもないことを言い出したのだ。
俺は今、エメラルドの編集長だ!
それを聞いた律はしばらく固まった。
エメラルドの編集長?まさか!
律は驚き、混乱するが、すぐに反撃を試みた。
ハァァ!?政宗さんは集談社のアース編集部にいるんじゃ。
そう、律はそう思っていたのだ。
だからこそ集談社は、今回入社の候補に入れなかった。
でも高野に「転職したんだよ。ちゃんと言ったぞ!」とあっさり撃沈されてしまった。
えええ~!?
律は絶叫し、高野は混乱した。
夕食の魚は焦げてしまったし、煮物は煮詰まって味が濃かった。
だけどそんなことはどうでも良いくらい、2人は動転していたのだ。
こうして律と高野の恋の第二章が始まった。
10年間、少々マンネリ化してしまった2人の関係。
だけど同じ職場で働くというハプニングで、予想外の方向に回り始めたのである。
律は不機嫌にそう答える。
実際、不本意極まりないのだ。
だけど恋人のリアクションに「ハァァ!?」と固まることになるのだった。
その日、小野寺律は最悪の気分で帰宅した。
親が経営する出版社、小野寺出版。
そこで働いていた律が辞表を叩きつけたのは、少し前の事だった。
先輩社員に「七光り」だと陰口を叩かれ、正当な評価をされない。
それが気に入らなくて、出奔したのである。
そして今日は別の出版社の入社試験を受けた。
業界最大手の丸川書店だ。
今までの実績は充分、自信はあった。
だけどその結果は実に不本意なものだったのだ。
律は最悪に機嫌が悪いまま、自宅マンションに戻った。
エントランスを抜けて、エレベーターで12階へ。
だけど自室ではなく、1つ隣の部屋に向かう。
なぜなら律は恋人と同じマンションで、隣同士に住んでいるからだ。
ただいま。今日のごはん、何?
律は開口一番、そう言った。
恋人は「和食だ。煮物と焼き魚」と答える。
彼の名前は高野政宗。
高校時代に出逢った同性の恋人とは、もう10年の付き合いになる。
付き合い当初のラブラブ度はかなり減り、今は熟年夫婦の域に達していた。
何だよ。就職、ダメだったのか?
高野は律が不機嫌なのを感じ取って、そう聞いてきた。
律は「むぅ」と拗ねて、頬を膨らませる。
口に出すのも腹立たしいが、盛大にグチりたいという複雑な心境なのだ。
合格はしたけどさぁ。希望の部署じゃなかったんだよ。
律はリビングのソファにゴロリと横になった。
身だしなみに無頓着な律は、スーツにシワができてしまうという発想はない。
そして家事が得意で世話好きな高野が、律の服のアイロン掛けまでしてくれる。
文芸は無理だったのか。
高野はキッチンに立ち、夕食の準備をしながらそう言った。
煮物はそろそろ煮える頃だし、魚は今焼き始めた。
後は最後の仕上げをして、食卓に並べるだけだ。
うん。少女漫画編集だって。ふざけるなって感じだよ。
律は料理をする高野の背中に、盛大にグチった。
そう、丸川書店に合格はできた。
だけど告げられた配属先はエメラルド編集部。
少女漫画を作っている部署だったのだ。
正直、迷ったんだよ。
ことわって別の出版社を受けるか、とりあえず丸川で転属のチャンスを待つか。
結局迷って、丸川書店に入った。
律は不機嫌に眉を寄せながら、そう言った。
内心は不満タラタラ、グチが止まりそうもない。
小野寺出版では大物作家について、ヒット作も多く出した。
当然文芸に行けると思ってたのだ。
それなのに、回された先がまさかの少女漫画編集だなんて!
それでも丸川書店に入社を決めたのは、会社の大きさだった。
律の野望は、律を「七光り」と叩いていた先輩編集部員を見返してやること。
だから小野寺出版よりデカい丸川書店に入れるのは魅力だったのだ。
事あるごとに転属をアピールして、何が何でも文芸に言ってやる!
その辺りを高野に聞いてもらうつもりだったのに、返って来た反応は予想外だった。
は?お前、丸川に入ったの?そこの少女漫画って。
高野は慌てた様子でこちらを振り返った。
だけど自分のことで手一杯の律は、気付かない。
ソファで横になり、天井を睨みながら「エメラルド編集部だって」と答えた。
すると高野から「は?もう一度言ってくれ!」とまた聞き返された。
だ~か~らぁ!丸川書店のエメラルド編集部だけど。
律は何度も聞かれ、不機嫌を倍増させながら、そう答えた。
すると高野があろうことか、とんでもないことを言い出したのだ。
俺は今、エメラルドの編集長だ!
それを聞いた律はしばらく固まった。
エメラルドの編集長?まさか!
律は驚き、混乱するが、すぐに反撃を試みた。
ハァァ!?政宗さんは集談社のアース編集部にいるんじゃ。
そう、律はそう思っていたのだ。
だからこそ集談社は、今回入社の候補に入れなかった。
でも高野に「転職したんだよ。ちゃんと言ったぞ!」とあっさり撃沈されてしまった。
えええ~!?
律は絶叫し、高野は混乱した。
夕食の魚は焦げてしまったし、煮物は煮詰まって味が濃かった。
だけどそんなことはどうでも良いくらい、2人は動転していたのだ。
こうして律と高野の恋の第二章が始まった。
10年間、少々マンネリ化してしまった2人の関係。
だけど同じ職場で働くというハプニングで、予想外の方向に回り始めたのである。
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