オンラインお茶会
こんにちは。初めまして。
画面の向こうで綺麗な女性が微笑みながら頭を下げる。
日和は初対面の大人の女性に緊張しながら「初めまして」と答えた。
ギリシャ語で王冠という意味の名を持つ新型肺炎ウイルス。
それは東京のみならず日本を、そして世界を席巻していた。
本日の東京の新規感染者は〇〇名。
重症者は××名。
それがニュースにならない日はない。
そんな異常事態の中、桐嶋日和は自宅にこもっていた。
学校はオンライン授業になり、登校が禁止になったからだ。
クラブ活動やイベントなども一切ない。
ひたすら家に閉じこもり、外とのつながりはもっぱら画面越しになった。
何で大人って、お酒が大好きなのかな。
日和は家にこもりがちな日々の中、そんなことを思った。
テレビでは女性都知事がステイホームだの、三密を避けろなどと訴えている。
会食は4名以下、短時間で。
だけど大人は「早く前のように飲みに行きたい」などと言う。
有名人が大人数で飲み会をしたなんてニュースが出たら、たちまち炎上だ。
日和からすれば「何言ってんの?」って感じだ。
こっちは貴重な学校生活を削られている。
運動会も遠足も、文化祭もない。
それどころか学校にも行けず、友人との楽しい時間も築けない。
それに比べたら、酒を飲みに行けないくらい何なんだと思うのだ。
でもそんな大人たちばかりではない。
例えば父である桐嶋禅や、その友人の横澤隆史。
彼らはしっかりと新しい社会の規律を守っている。
外出時のマスク着用は言うまでもなく、仕事はできる限りリモートワーク。
飲みどころか外食も控えていた。
頻繁に泊まりに来ていた横澤も、めっきり顔を見せなくなった。
その代わりに時折、スマホにメッセージが来る。
彼の飼い猫であるソラ太は桐嶋家で預かることになったからだ。
日和に世話をまかせっきりであることを悪いと思っているらしい。
それにやはり寂しいんだと思う。
ソラ太は横澤の猫で、ずっと2人で暮らしていたのだから。
それなら、横澤のお兄ちゃんが楽しく過ごせるように。
日和はそう思い、ソラ太の写真を撮りまくった。
ソファで寝ている姿や、旺盛な食欲でご飯を食べる姿。
玩具にじゃれたり、爪とぎや身繕いをする様子等々。
そして毎日、時には日に数回、それを横澤に送った。
だがそれを繰り返していたある日、日和は気付いた。
いちいち撮影して、それを送るのは効率が悪すぎる。
それならばと、日和はSNSを始めた。
思い立ったら、ソラ太の写真や動画をアップする。
横澤には好きなときに見てもらえばいい。
だがそのことで別のつながりができた。
SNSにアップするということは、知り合い以外の者も見るということ。
そもそも猫の写真は人気なのだ。
爆発的なフォロワーを持つ猫も少なくない。
ソラ太はというと、所謂「バズる」ということはなかった。
人気の猫は顔や柄が抜きんでて可愛いとか、動きが面白いとかいろいろある。
だけどソラ太はごくごく普通の猫なのだ。
それにすでに結構な年齢で動きも少ない。
だけど少数のファンはできた。
独特の存在感があるとか。
動画なのに静止画のように動かないのが面白いとか。
ソラ太の写真や動画にはそんなコメントがつき、そこそこの「いいね」がついた。
そして日和はネット上で友人ができた。
いつもソラ太の写真に真っ先にコメントをくれる人だ。
その人もSNSで写真を公開していた。
オシャレなスイーツや雑貨、海外の風景などだ。
察するに相手は若い女性、しかもセレブな雰囲気だ。
日和もまた彼女の写真に、コメントを送った。
スイーツは美味しそうだし、雑貨はオシャレで目の保養になる。
見知らぬ海外の風景も、旅行気分になれてありがたいと。
特に今は学校にも行けない状況。
彼女の写真は日和にひとときの安らぎを与えてくれる。
オンラインお茶会しませんか?
何回かメッセージを送り合ううちに、そんな流れになった。
日和は一も二もなく、了承した。
普通に学校に通っていたら、きっとこうなってはいない。
こんなご時世だからこそ築けた、不思議な絆だ。
そしてついに約束の日。
日和はスマホの画面越しに、ついに彼女と対面した。
彼女は想像通りの人だった。
年齢は20代半ば、可愛らしくて上品な美人だ。
こんにちは。初めまして。
彼女は微笑みながら、頭を下げる。
長い髪がサラサラと揺れる様さえ、綺麗だ。
初めまして。今日はありがとうございます。
日和は頭を下げると、ソラ太を抱き寄せて画面に入るようにした。
画面の向こうの彼女が「ソラちゃんだ」と笑う。
ソラ太は心得たように「にゃあん」といつになく可愛い声で鳴いた。
画面の向こうで綺麗な女性が微笑みながら頭を下げる。
日和は初対面の大人の女性に緊張しながら「初めまして」と答えた。
ギリシャ語で王冠という意味の名を持つ新型肺炎ウイルス。
それは東京のみならず日本を、そして世界を席巻していた。
本日の東京の新規感染者は〇〇名。
重症者は××名。
それがニュースにならない日はない。
そんな異常事態の中、桐嶋日和は自宅にこもっていた。
学校はオンライン授業になり、登校が禁止になったからだ。
クラブ活動やイベントなども一切ない。
ひたすら家に閉じこもり、外とのつながりはもっぱら画面越しになった。
何で大人って、お酒が大好きなのかな。
日和は家にこもりがちな日々の中、そんなことを思った。
テレビでは女性都知事がステイホームだの、三密を避けろなどと訴えている。
会食は4名以下、短時間で。
だけど大人は「早く前のように飲みに行きたい」などと言う。
有名人が大人数で飲み会をしたなんてニュースが出たら、たちまち炎上だ。
日和からすれば「何言ってんの?」って感じだ。
こっちは貴重な学校生活を削られている。
運動会も遠足も、文化祭もない。
それどころか学校にも行けず、友人との楽しい時間も築けない。
それに比べたら、酒を飲みに行けないくらい何なんだと思うのだ。
でもそんな大人たちばかりではない。
例えば父である桐嶋禅や、その友人の横澤隆史。
彼らはしっかりと新しい社会の規律を守っている。
外出時のマスク着用は言うまでもなく、仕事はできる限りリモートワーク。
飲みどころか外食も控えていた。
頻繁に泊まりに来ていた横澤も、めっきり顔を見せなくなった。
その代わりに時折、スマホにメッセージが来る。
彼の飼い猫であるソラ太は桐嶋家で預かることになったからだ。
日和に世話をまかせっきりであることを悪いと思っているらしい。
それにやはり寂しいんだと思う。
ソラ太は横澤の猫で、ずっと2人で暮らしていたのだから。
それなら、横澤のお兄ちゃんが楽しく過ごせるように。
日和はそう思い、ソラ太の写真を撮りまくった。
ソファで寝ている姿や、旺盛な食欲でご飯を食べる姿。
玩具にじゃれたり、爪とぎや身繕いをする様子等々。
そして毎日、時には日に数回、それを横澤に送った。
だがそれを繰り返していたある日、日和は気付いた。
いちいち撮影して、それを送るのは効率が悪すぎる。
それならばと、日和はSNSを始めた。
思い立ったら、ソラ太の写真や動画をアップする。
横澤には好きなときに見てもらえばいい。
だがそのことで別のつながりができた。
SNSにアップするということは、知り合い以外の者も見るということ。
そもそも猫の写真は人気なのだ。
爆発的なフォロワーを持つ猫も少なくない。
ソラ太はというと、所謂「バズる」ということはなかった。
人気の猫は顔や柄が抜きんでて可愛いとか、動きが面白いとかいろいろある。
だけどソラ太はごくごく普通の猫なのだ。
それにすでに結構な年齢で動きも少ない。
だけど少数のファンはできた。
独特の存在感があるとか。
動画なのに静止画のように動かないのが面白いとか。
ソラ太の写真や動画にはそんなコメントがつき、そこそこの「いいね」がついた。
そして日和はネット上で友人ができた。
いつもソラ太の写真に真っ先にコメントをくれる人だ。
その人もSNSで写真を公開していた。
オシャレなスイーツや雑貨、海外の風景などだ。
察するに相手は若い女性、しかもセレブな雰囲気だ。
日和もまた彼女の写真に、コメントを送った。
スイーツは美味しそうだし、雑貨はオシャレで目の保養になる。
見知らぬ海外の風景も、旅行気分になれてありがたいと。
特に今は学校にも行けない状況。
彼女の写真は日和にひとときの安らぎを与えてくれる。
オンラインお茶会しませんか?
何回かメッセージを送り合ううちに、そんな流れになった。
日和は一も二もなく、了承した。
普通に学校に通っていたら、きっとこうなってはいない。
こんなご時世だからこそ築けた、不思議な絆だ。
そしてついに約束の日。
日和はスマホの画面越しに、ついに彼女と対面した。
彼女は想像通りの人だった。
年齢は20代半ば、可愛らしくて上品な美人だ。
こんにちは。初めまして。
彼女は微笑みながら、頭を下げる。
長い髪がサラサラと揺れる様さえ、綺麗だ。
初めまして。今日はありがとうございます。
日和は頭を下げると、ソラ太を抱き寄せて画面に入るようにした。
画面の向こうの彼女が「ソラちゃんだ」と笑う。
ソラ太は心得たように「にゃあん」といつになく可愛い声で鳴いた。
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