High School Lullaby

はじめまして。小野寺律です。
美少女がサラサラの髪を揺らしながら、笑う。
それを見た千秋は「神様って不公平」と思わざるを得なかった。

吉野千秋は都内の丸川学園高校の2年生。
自分ではごくごく平均並みの女子だと思っている。
見た目は取り立てて美人ではないが、ブスでもない。
成績は学年の中で、だいたい真ん中あたり。
運動神経は悪くないけど、運動部に入るほどでもない。
つまりドッペルゲンガーが何人もいるような平凡な女子高生だ。

そんな千秋は重い足取りで登校した。
取り立てて悩みがあるわけではない。
ただ年が変わった冬休み明け、すっかり休みに慣れた身体がだるいだけだ。
来年の今頃はきっと大学受験に向けて、勉強漬けの日々だろう。
それを考えるだけで、ますます憂鬱になる。

始業ギリギリに教室に飛び込んだ千秋は、コートを脱いで席についた。
その途端、始業のチャイムが鳴り、担任教師が現れる。
だがその後ろに見慣れない美少女がいたのを見て、教室内が騒めいた。
しかも美少女は千秋と同じように、この学校の制服を着ている。
普通に考えれば、転校生ということだろう。

うちの学校に転校生?
今まで聞いたこと、ないよな!
しかもこんな時期に?

クラスメイトたちがひそひそと話す声が聞こえる。
千秋もそれには同意だ。
丸川学園高校は私立で、中学からエスカレーター式だ。
だが中学からここまでの5年間、転校生は1人もいない。
稀に退学する者はいるが、代わりに誰かが入るようなこともなかった。

それに何でこの時期にとも思った。
2年生の1月からなんて、中途半端すぎる。
千秋だけでなく、クラス全体が落ち着かない雰囲気になった。
そこへ担任の横澤が「静かに!」と声を張った。

このクラスに新しい仲間が加わる。
1年ちょいの短い間だが、よろしく頼む。

横澤は短い説明の後、黒板に白いチョークで「小野寺律」と書いた。
美少女はそれを見て「転校生の定番だ」と呟く。
そして教壇に立ち、クラスを見回すとニッコリ笑った。

はじめまして。小野寺律です。
軽く頭を下げるのと同時に、サラサラの茶色い髪が揺れる。
その途端、誰からともなく「ほぉぉ」とため息が漏れた。
それを見た千秋は「神様って不公平」と思わざるを得なかった。

小野寺律はただ単に美人だっただけではない。
印象的な緑色の瞳は、笑うとさらに魅力的になる。
しかも恐ろしくスタイルが良かった。
170センチを少し超えるスラリとした長身、しかもウエストの位置が高い。
わかりやすいモデル体型だ。
何でも平均点の千秋とは、対照的な存在に見えた。

席は一番後ろ、羽鳥の隣が空いているな。
横澤は最後尾、窓際から二番目の空席を指さした。
律は「はい」と頷くと、その席へつかつかと歩き出す。
男子生徒だけでなく女子まで、スカートから出た美脚に釘付けだ。
だが千秋は違うことを考えていた。

律の席は千秋の幼なじみ、羽鳥芳雪の隣。
ただそれだけのことに、千秋は思いがけず混乱していた。
羽鳥も顔立ちの整ったイケメンで、女子人気が高い。
例えばこのクラスの女王様的存在の一之瀬絵梨佳は、わかりやすく羽鳥狙いだ。
それだけでも何だか心がざわつくのに。
突然現れた華やかな美少女は、羽鳥の隣にいて実に絵になる。

羽鳥君?よろしくね~!
律は気さくに羽鳥に手を振り、羽鳥も「よろしく」と答えている。
嫌だ。何だかものすごく嫌だ。
千秋は思わず涙ぐみそうになり、思い切り目に力を入れて堪えた。
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