バレンタインのサンタクロース
吉野千秋は、苦心作である「それ」を齧った。
だが一口食べただけで「美味しくない」と呟き、ゴミ箱に放り込んでしまった。
クリスマスイブに出逢ったピザの配達員、羽鳥と付き合い始めて1ヶ月強。
この辺りがいわゆる超ラブラブな時期だというのは、別に羽鳥と吉野に限った話ではないだろう。
そんな時にやって来た恋人たちの一大イベント、バレンタインデー。
張り切るなと言われたって、無理な話だ。
残念ながらその日、羽鳥はアルバイトを休めない。
やはりこの日もピザの注文は、多いのだ。
2人っきりでちょっとリッチにピザパーティ、なんてカップルも多いのだろう。
だけど店の窯を借りて、ピザを焼いて持って来てくれると言う。
どうやら店のメニューにはないオリジナルのトッピングで作るつもりらしい。
だから少し遅くなるけど、待っていて欲しい。
羽鳥はそう言って、笑っていた。
では俺は?と吉野は考え込んでしまう。
羽鳥にだけピザを用意させて、自分はのほほんと待っている?
いやそれではあんまりだ。
羽鳥のために何かがしたいと思う。
羽鳥がオリジナルピザを焼いてくれるなら、自分も手作りしたい。
そう思ったものの、吉野はそこで考え込んだ。
手作りチョコと呼ばれるやつを作ってみようか?
まだ実家に住んでいた頃、妹が確かそんなものを作っていた記憶がある。
試作品毒見兼義理チョコだと言って、食べさせられたそれは正直言って不味かった。
だがもしかしたら、単に記憶の誤りかもしれない。
吉野は自分で湯せんで溶かして、型に入れて固めたチョコを食べてみた。
だがやはり美味しくなかった。
これなら加工など何もしない方が余程美味いと思う。
答えは簡単、チョコレートを1度溶かして固めただけではどうしても風味が落ちるものなのだ。
普通はナッツやクリームやココアパウダーなどで細工をするが、吉野も妹もその工程を省いていた。
だが料理初心者の吉野は、そんなことには考えが及ばず、悩んでしまう。
そもそもチョコの手作りの概念とは何だろう?
カカオ豆から生成するならともかく、溶かして固めただけのものが手作りなんていえるのか?
ほとんど八つ当たりのように、心の中で悪態をついた。
吉野はパソコンを立ち上げると、手作りスイーツのレシピの検索を始めた。
どうしてもチョコレートでは上手い解決法が思いつけない。
何か他のもので、吉野でも作れそうなものはないだろうか?
だが次々にいろいろな問題が発覚して、立ちはだかる壁となった。
まず1人暮らしの吉野の家にはオーブンがないのだ。
あるのは温めるだけしかできない電子レンジと、パンを縦に入れて飛び出すタイプのトースター。
この2つでは焼き菓子などはできないだろう。
ではガスコンロでなにか焼くしかないのか?
だが使い古した小さな鍋とフライパンしかない。
こんなもので何か作ったら、惣菜のにおいが移りそうだ。
それに財布の中には今1000円ほどしかないし、銀行口座の残高も同様だ。
バレンタインのパーティ用に酒を買ってしまえば、ほとんど残金はない。
家にある使えそうな食材は、特売の時に買った卵が2ケースと砂糖、あとはハチミツくらいか。
せめて小麦粉とかバターなんかがあればいいのに。
だがいくら念じようとないものはないのだ。
俺ってどうしてこう計画性がないんだろう。
吉野は心の底から途方にくれて、深い深いため息をついた。
2月14日がバレンタインデーなんて、わかりきっているのだ。
計画的にお金を残して買い物をすることに、どうして知恵が回らないのか。
とにかくあるもので何とかするしかない。
吉野はパソコンに向かうと、必死に検索を始めた。
羽鳥との初めてのバレンタインデーなのだ。
何としても思い出に残るものにしなくてはならない。
だが一口食べただけで「美味しくない」と呟き、ゴミ箱に放り込んでしまった。
クリスマスイブに出逢ったピザの配達員、羽鳥と付き合い始めて1ヶ月強。
この辺りがいわゆる超ラブラブな時期だというのは、別に羽鳥と吉野に限った話ではないだろう。
そんな時にやって来た恋人たちの一大イベント、バレンタインデー。
張り切るなと言われたって、無理な話だ。
残念ながらその日、羽鳥はアルバイトを休めない。
やはりこの日もピザの注文は、多いのだ。
2人っきりでちょっとリッチにピザパーティ、なんてカップルも多いのだろう。
だけど店の窯を借りて、ピザを焼いて持って来てくれると言う。
どうやら店のメニューにはないオリジナルのトッピングで作るつもりらしい。
だから少し遅くなるけど、待っていて欲しい。
羽鳥はそう言って、笑っていた。
では俺は?と吉野は考え込んでしまう。
羽鳥にだけピザを用意させて、自分はのほほんと待っている?
いやそれではあんまりだ。
羽鳥のために何かがしたいと思う。
羽鳥がオリジナルピザを焼いてくれるなら、自分も手作りしたい。
そう思ったものの、吉野はそこで考え込んだ。
手作りチョコと呼ばれるやつを作ってみようか?
まだ実家に住んでいた頃、妹が確かそんなものを作っていた記憶がある。
試作品毒見兼義理チョコだと言って、食べさせられたそれは正直言って不味かった。
だがもしかしたら、単に記憶の誤りかもしれない。
吉野は自分で湯せんで溶かして、型に入れて固めたチョコを食べてみた。
だがやはり美味しくなかった。
これなら加工など何もしない方が余程美味いと思う。
答えは簡単、チョコレートを1度溶かして固めただけではどうしても風味が落ちるものなのだ。
普通はナッツやクリームやココアパウダーなどで細工をするが、吉野も妹もその工程を省いていた。
だが料理初心者の吉野は、そんなことには考えが及ばず、悩んでしまう。
そもそもチョコの手作りの概念とは何だろう?
カカオ豆から生成するならともかく、溶かして固めただけのものが手作りなんていえるのか?
ほとんど八つ当たりのように、心の中で悪態をついた。
吉野はパソコンを立ち上げると、手作りスイーツのレシピの検索を始めた。
どうしてもチョコレートでは上手い解決法が思いつけない。
何か他のもので、吉野でも作れそうなものはないだろうか?
だが次々にいろいろな問題が発覚して、立ちはだかる壁となった。
まず1人暮らしの吉野の家にはオーブンがないのだ。
あるのは温めるだけしかできない電子レンジと、パンを縦に入れて飛び出すタイプのトースター。
この2つでは焼き菓子などはできないだろう。
ではガスコンロでなにか焼くしかないのか?
だが使い古した小さな鍋とフライパンしかない。
こんなもので何か作ったら、惣菜のにおいが移りそうだ。
それに財布の中には今1000円ほどしかないし、銀行口座の残高も同様だ。
バレンタインのパーティ用に酒を買ってしまえば、ほとんど残金はない。
家にある使えそうな食材は、特売の時に買った卵が2ケースと砂糖、あとはハチミツくらいか。
せめて小麦粉とかバターなんかがあればいいのに。
だがいくら念じようとないものはないのだ。
俺ってどうしてこう計画性がないんだろう。
吉野は心の底から途方にくれて、深い深いため息をついた。
2月14日がバレンタインデーなんて、わかりきっているのだ。
計画的にお金を残して買い物をすることに、どうして知恵が回らないのか。
とにかくあるもので何とかするしかない。
吉野はパソコンに向かうと、必死に検索を始めた。
羽鳥との初めてのバレンタインデーなのだ。
何としても思い出に残るものにしなくてはならない。
1/2ページ