SecondaryCreation

初コメ、来たぁぁぁ~♪
パソコンの画面にその表示を見つけた律は、思わず拳を握ってガッツポーズをしていた。

小野寺律は大学を卒業後、ウェブデザインの仕事をしている。
会社には所属しているが、基本的には在宅勤務。
必要があるときだけ会社に出社する。
だから煩わしい会社の飲み会などないのはいいが、時間が不規則で友人とも時間が合わない。
その結果、何日も誰とも口を利かないことがあったりする。

そんな律が、最近ハマっていることがある。
きっかけは徹夜仕事の傍ら、つけっぱなしにしていたテレビだった。
甘ったるいセリフ回しのアニメをやっている。
美青年同士の恋愛モノ、おそらくボーイズラブと言われるヤツだろう。
そんなジャンルの漫画や小説があり、腐女子などと呼ばれるファンがいることもなんとなく知っている。
だが律は「男同士って。キモっ!」とバッサリ切り捨てた。
いや切り捨てたつもりだったのだが。

気がつけば、ガッツリと見てしまっていた。
妙に面白いし、何だか甘酸っぱいような切ないような気持ちになり、キャラの気持ちにも共感したのだ。
もしかして「萌え」ってヤツか?でも俺、男なんだけど!
大いに困惑しつつも、律はしっかりとBLアニメに引き込まれていた。

次の週からは、その曜日のその時間にわざわざチャンネルを合わせるようになった。
そして毎回毎回、どっぷりとその世界観に浸った。
さらに原作の漫画があることを知り、幸いなことに電子書籍版もあることもわかる。
律は迷わずクリックして、一気に大人買いした。
そうしながら、ネットでファンサイトなどを覗いたりした。
すると「攻」だの「受」だの、生きていく上ではほぼ必要がない知識が増えていく。
どちらかと言えば「受」側の気持ちに共感するのは、俺が「受」だからか?
そんなことを考えて、人知れず悶えたりした。

そうこうしているうちに、アニメの放送が終わった。
ノベライズ作品も買い揃えると、もう読めるものはすべて読んでしまったことになる。
原作漫画は未だに連載中なので、後は続きを待つばかり。
ああ、早く新しいの読みたいなぁ。
そんなことを思いながら、律は日々作品の情報を求めて、空いた時間にネット検索に勤しむ。
そして見つけてしまったのだ。禁断の入口を。
その名は二次創作。
ファンたちが好きな作品のキャラクターを使って、物語を綴るのだ。
それをネット上で、無料で公開している。

まだまだ読める作品、いっぱいあるじゃん!
律は狂喜しながら、二次創作のサイトをめぐり続けた。
専用の大手サイトもあるし、ブログ形式でまとめている人もいる。
とにかく原作が1つしかないのに、二次創作作品は無限にあった。
これは一生楽しめるかもと、思ったのだが。

数多くの二次作品を読んでいると、またしても欲が出てきた。
ネットに散らばる多くの作品は、まさに玉石混交だ。
面白いものもたくさんあるが、ごくたまに律の好みには合わないものがあったりする。
そこから「俺だったらこんな風に書くなぁ」なんて考え始めたことが、律を更なる禁断に誘う。
こんな話を読みたい。それなら書けばいい!
律はこうして、二次創作世界の更なる深みに堕ちていったのだ。

律は自分が思う妄想を書き殴った。
書いては読んで直す、これを何回も繰り返す。
そこで終わりにするつもりだった。
あくまで自分が楽しむためのもの、誰かに読んでもらうなんておこがましい!

それでも律が作品をネットにアップすることに決めたのは、そこに交流があるのを知ったからだ。
作品に感想をコメントする人がたくさんいたし、メールも送れるようになっている。
日頃人と接することが少ない律にとって、好きな作品で誰かと意見が交わせるのは魅力的だった。
それに誰かが自分の作品で感動してくれたら。
いや感動なんて図々しいことは言わない。
ひと時でも楽しんでくれたら、それは嬉しいことだと思う。

かくして大手サイトに会員登録をした律は、まずは体裁を整えた。
色やデザインを選ぶだけで、簡単にできる。
そして短編を3作ほどアップし、ドキドキしながら待った。
どうなるかな?少しでも褒めてもらえると嬉しいけど。
まさかディスられたら、どうしよう!?

そして作品アップから数時間後、ついにその時は来た。
コメント1件の表示があったのだ!
初コメ、来たぁぁぁ~♪
律はドキドキしながら、コメント欄をクリックする。
そして書かれたコメントを読んで、ガッツポーズをした。

ステキな作品、感動しました。
こんな作品が読みたかったんです。
ありがとうございました。

初めてのコメントは、ベタ褒めとも言えるほどの高評価だった。
時間が経つにつれて、もしかしてお世辞がかなり入ってるんだろうなと思い直したりもした。
だが読んだ瞬間は、確かに飛び上がるほど嬉しかったのだ。
こうして律は二次創作作家として、ささやかなデビューを果たしたのだった。
1/15ページ