Ghost Waltz
他の人と一緒に住むことにしました。
恋人の言葉に、高野は目を剥いた。
高野政宗と小野寺律は半同棲状態で暮らしている。
借りているのは2世帯住宅と言われるタイプの家だ。
高野は1階、律は2階に住み、それぞれ自宅で開業している。
2人の職業は特殊だった。
高野の仕事を占い師。
客の未来を占い、アドバイスをする。
実は高野には、未来を見る力などない。
だが高野は人間観察が優れており、客の心を読み、欲しい言葉を察することができる。
後はこれまた得意な話術で、客をいい気分にさせるのだ。
ある意味詐欺とも言えるが、客は満足しているし、意外と繁盛している。
そして律の仕事は浄霊師だ。
成仏できない死者の魂と会話し、慰める。
そうすることで死者と残された者の心を救うのだ。
こっちは高野と違い、本物の能力者だ。
だが正直な上に商売っ気がない律は、いつも損な役回りばかり。
そして儲からない。
だから生活はいつもギリギリで、電話や電気を止められることはしょっちゅうだ。
放っておけば食事さえ満足にとらないことさえある。
高野と律は、一応恋人同士だ。
少なくても高野はそのつもりであり、律を溺愛していると断言できる。
だが最大の悩みは律との温度差だった。
律も高野のことを好きでいてくれるとは思っているが、どうにも自分と同じ熱量を感じないのだ。
理由はわかっている。
子供の頃、霊が自分にだけ見えるとは思っていなかった律は、楽しく霊と会話したそうだ。
周りの人間からはさぞかし奇異な少年に見えただろう。
親ですら、律を気味が悪い子供だと思っていたらしい。
その結果、集団生活ではどこか浮いた存在になってしまったのだ。
親子関係、友人関係さえよくわかっていない律に、恋愛はかなりハードルが高いのだろう。
高野はくじけることなく、律の世話を焼いた。
こうして変則的ではあるが、同じ家に住んだ。
食事の度に律に声をかけ、夜は一緒に眠るようにしている。
こうしてこのどこか浮世離れした青年に、1つ1つ教えていけばいい。
恋愛の楽しさや喜び、切なさや悲しみを。
そうすることで、いつか温度差などないラブラブな恋人同士になれると信じている。
そんなある日のことだった。
相変わらず高野は売れっ子占い師で、客は引きも切らない。
対する律は少ない仕事を安値で、しかも全力でやる。
本物の方が儲けが少ないという理不尽さだが、律は気にする素振りもない。
だがそんな当たり前の日の夕食時、律はとんでもないことを言い出したのだ。
他の人と一緒に住むことにしました。
恋人の言葉に、高野は目を剥いた。
だが律は平然と「だからしばらく留守にします」と言った。
そして律は淡々と箸を進める。
高野が作った心尽くしの夕食が、次々に律の胃袋へと消えていく。
そりゃ別れるってことか?
高野は静かにそう聞いた。
口調は平穏を装っているが、内心はドキドキものだ。
だが律は「何でです?」とキョトンとした表情だ。
別れ話ではないのか。
高野はひとまずホッとして、律が差し出す茶碗にご飯のおかわりをよそった。
ええと、ですね。
昔一緒に仕事をした人が、ちょっと何だかまずいことになってる感じで。
少しの間、一緒に住んでみようかと思いまして。
律の説明に、高野はため息まじりに「あのなぁ」と言った。
圧倒的に言葉が足りないのだ。
昔一緒に仕事をした人とは誰なのか。
まずいこととは何なのか。
そして「何だか」とか「感じ」とか曖昧な言葉が並ぶのはなぜなのか。
まず昔一緒に仕事をした人ってのは誰だ?
高野はまずそれを聞いた。
心に浮かんだ疑問を1つ1つ聞いていくことにしたのだ。
律に説明させるよりその方が早いことは、経験でわかっている。
ええと、美濃奏さんです。
俺と同じで霊が見えるので、それを仕事にしている人です。
見た目はイケメンで、結構モテるんですよ。
高野は舌打ちしたくなるのを懸命に堪えた。
まったく恋人の前で他の男を褒めるなど、論外だ。
だが今は食事中だし、まだ話は終わっていない。
お仕置きと称して押し倒すのは、後回しにする。
それにしても、また何だか嫌な予感がする。
未来が見えない占い師は、恋人が厄介ごとに巻き込まれることを明確に悟っていた。
恋人の言葉に、高野は目を剥いた。
高野政宗と小野寺律は半同棲状態で暮らしている。
借りているのは2世帯住宅と言われるタイプの家だ。
高野は1階、律は2階に住み、それぞれ自宅で開業している。
2人の職業は特殊だった。
高野の仕事を占い師。
客の未来を占い、アドバイスをする。
実は高野には、未来を見る力などない。
だが高野は人間観察が優れており、客の心を読み、欲しい言葉を察することができる。
後はこれまた得意な話術で、客をいい気分にさせるのだ。
ある意味詐欺とも言えるが、客は満足しているし、意外と繁盛している。
そして律の仕事は浄霊師だ。
成仏できない死者の魂と会話し、慰める。
そうすることで死者と残された者の心を救うのだ。
こっちは高野と違い、本物の能力者だ。
だが正直な上に商売っ気がない律は、いつも損な役回りばかり。
そして儲からない。
だから生活はいつもギリギリで、電話や電気を止められることはしょっちゅうだ。
放っておけば食事さえ満足にとらないことさえある。
高野と律は、一応恋人同士だ。
少なくても高野はそのつもりであり、律を溺愛していると断言できる。
だが最大の悩みは律との温度差だった。
律も高野のことを好きでいてくれるとは思っているが、どうにも自分と同じ熱量を感じないのだ。
理由はわかっている。
子供の頃、霊が自分にだけ見えるとは思っていなかった律は、楽しく霊と会話したそうだ。
周りの人間からはさぞかし奇異な少年に見えただろう。
親ですら、律を気味が悪い子供だと思っていたらしい。
その結果、集団生活ではどこか浮いた存在になってしまったのだ。
親子関係、友人関係さえよくわかっていない律に、恋愛はかなりハードルが高いのだろう。
高野はくじけることなく、律の世話を焼いた。
こうして変則的ではあるが、同じ家に住んだ。
食事の度に律に声をかけ、夜は一緒に眠るようにしている。
こうしてこのどこか浮世離れした青年に、1つ1つ教えていけばいい。
恋愛の楽しさや喜び、切なさや悲しみを。
そうすることで、いつか温度差などないラブラブな恋人同士になれると信じている。
そんなある日のことだった。
相変わらず高野は売れっ子占い師で、客は引きも切らない。
対する律は少ない仕事を安値で、しかも全力でやる。
本物の方が儲けが少ないという理不尽さだが、律は気にする素振りもない。
だがそんな当たり前の日の夕食時、律はとんでもないことを言い出したのだ。
他の人と一緒に住むことにしました。
恋人の言葉に、高野は目を剥いた。
だが律は平然と「だからしばらく留守にします」と言った。
そして律は淡々と箸を進める。
高野が作った心尽くしの夕食が、次々に律の胃袋へと消えていく。
そりゃ別れるってことか?
高野は静かにそう聞いた。
口調は平穏を装っているが、内心はドキドキものだ。
だが律は「何でです?」とキョトンとした表情だ。
別れ話ではないのか。
高野はひとまずホッとして、律が差し出す茶碗にご飯のおかわりをよそった。
ええと、ですね。
昔一緒に仕事をした人が、ちょっと何だかまずいことになってる感じで。
少しの間、一緒に住んでみようかと思いまして。
律の説明に、高野はため息まじりに「あのなぁ」と言った。
圧倒的に言葉が足りないのだ。
昔一緒に仕事をした人とは誰なのか。
まずいこととは何なのか。
そして「何だか」とか「感じ」とか曖昧な言葉が並ぶのはなぜなのか。
まず昔一緒に仕事をした人ってのは誰だ?
高野はまずそれを聞いた。
心に浮かんだ疑問を1つ1つ聞いていくことにしたのだ。
律に説明させるよりその方が早いことは、経験でわかっている。
ええと、美濃奏さんです。
俺と同じで霊が見えるので、それを仕事にしている人です。
見た目はイケメンで、結構モテるんですよ。
高野は舌打ちしたくなるのを懸命に堪えた。
まったく恋人の前で他の男を褒めるなど、論外だ。
だが今は食事中だし、まだ話は終わっていない。
お仕置きと称して押し倒すのは、後回しにする。
それにしても、また何だか嫌な予感がする。
未来が見えない占い師は、恋人が厄介ごとに巻き込まれることを明確に悟っていた。
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