Ghost Rhapsody

横澤さんですね。お待ちしておりました。
ドアから顔をのぞかせた青年の姿を見て、横澤は少なからず驚いていた。
彼が想像していたよりもはるかに若く、美しかったからだ。

横澤隆史は、教えられた住所の前でしばし呆然としていた。
築何年なのか想像もできないほど古く、ぶっちゃけ今にも倒れてしまいそうな木造平屋。
家というよりは小屋と言った方が正しい。
何も知らなければ、野ざらしの廃屋だと思うだろう。
正直言って訪問するのはかなり勇気がいるが、仕方がない。
意を決した横澤がそのドアを叩くと、中から若い男が顔を覗かせた。

勝手な想像で、胡散臭い年配の人物が出てくると思っていたのだ。
だが横澤よりかなり若い美青年は、シャツとジーパンというひどく普通の服装をしている。
イメージとあまりにも違う青年が出てきたことで、横澤はさらに驚いた。

どうぞ、適当に座ってください。
中に通されると、青年は人懐っこい笑顔でそう言った。
だがどこに座れというのだろう?
通されたこの広めの部屋はリビングなのだろうが、ソファには洗濯物が半分を占めていた。
テーブルには使用済みのカップや、コンビニ弁当などの残骸が溢れている。
むき出しの床には、本や雑誌などが散乱している。
どうやら本棚に入らない本を床に積んでいたのが、崩れたのだろう。

生活感があるにしても程がある。
青年の家はその美しい顔に似合わず、とにかく散らかっていた。
その上ギシギシときしむ木の床も怖い。
小柄なこの青年は大丈夫でも、長身の横澤では踏み抜いてしまいそうだ。
とにかく家事全般が得意で綺麗好きの横澤には、耐え難い部屋だった。

ああっと。座るトコないですね。作ります。
横澤は困っているのがわかったようで、青年が慌ててソファの洗濯物を手でかき集め始める。
だが横澤は「もういい」と言って、踵を返した。
こんな頼りなさそうな青年に相談しても、何かできるとは思えない。
そもそも霊能者など信じていないし、今日だって気が進まなかったのだ。
恋人があまりにも心配するから、渋々来ただけだ。

待ってください!と青年が慌てた声を上げた。
それはそうだろう。彼にしたら横澤は貴重な金ヅルなのだろうから。
横澤は構わず玄関へと歩を進めようとした。

女の人の霊が見えます!主人と娘のことで話があるって言ってます!
青年の叫ぶような声に、横澤は足を止めて振り返った。
思い当たることは大いにある。
横澤の恋人は妻に先立たれた男で、娘が1人いるからだ。
だがすぐに思い直した。
ここへは予約をして、つまり事前に名前や素性を明かしているのだ。
この青年は横澤のことを予め入念に調査していたに違いない。

俺のことを事前に調べてやがったな?このインチキ除霊師!
横澤は声を荒げると、ズカズカと青年の眼前まで戻り、襟首を掴んだ。
だが青年は少しも慌てることなく「あ~やっぱりそう来ますか」と苦笑した。
どうやら横澤のような反応には、すっかり慣れっこになっているようだ。
ゆっくりと横澤の手を掴んではずし、シャツの襟元を調える。

小野寺律です。ちなみに除霊師じゃなくて浄霊師ですから。
青年は悪びれた様子もなく、ニッコリと笑う。
横澤は怒りに頬を引きつらせながら、無駄に爽やかな笑顔を睨みつけた。
1/6ページ