高野さんの好きなコ

「高野さんってさ、小さい頃好きなコのこと、イジめるタイプだったでしょ?」
そう言い出したのは、木佐だ。
高野は「何で?」と聞き返した。

ここは丸川書店近くにある定食屋。
エメラルド編集部の面々は、今からランチタイムだ。
彼らは衝立に仕切られた奥のテーブル席を陣取っていた。
会社を出る直前に、担当作家から電話を受けた小野寺律以外のメンバーが揃っている。

「なんか律っちゃんとのやりとり見てるとさ、そう思うんだよね。」
「あぁ確かに。好きなのにわざと怒らせて興味を引くとか。そういうコ、クラスにいたよね。」
木佐の言葉に同意したのは、美濃だった。
羽鳥は聞いているのかいないのか、黙っていて表情を変えない。
実は「小さい頃」「好きなコ」というキーワードで、別の人物のことを考えているのだが。

高野は自分にも他人にも厳しい。
彼がエメラルド編集部に来たときには、周り全てが敵という感じで衝突を繰り返した。
木佐たちはそうしながら次第に理解しあい、今は仕事仲間として良好な関係にある。
だがその後配属になった律との関係は、そのどちらでもない。
律を漫画編集として育てようとしているのは(それも今までの高野にはありえない事だが)わかる。
そうしながらわざと律を茶化して怒らせて、まるでじゃれ合っているように見えるのだ。
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