湯たんぽと呼んで

お前、あったかい。湯たんぽだな。
政宗はそう言って、俺を抱きしめた。

ユタンポ?何のことだ?
俺がこの家に来た時、政宗は「今日からお前の名前はソラタだ」って言ったじゃないか。
でもそれから政宗は、俺のことを時々「ユタンポ」って呼ぶようになった。
よくわからないけど、まぁいいか。
いつも寂しそうな政宗が俺を「ユタンポ」って呼ぶとき、ちょっとだけ幸せそうだから。

でもしばらくして、政宗はたまに俺のことを「リツ」って呼ぶようになった。
「どこに行ったんだよ、リツ」って泣きながら、俺を抱きしめるんだ。
俺は政宗が好きで、政宗にはいつも笑ってて欲しいのに。

俺は「ソラタ」でも「ユタンポ」でもいいけど「リツ」は嫌だ。
俺を「リツ」って呼ぶときの政宗は、本当に寂しそうだからだ。

それからまたしばらくして、俺は隆史の家に引っ越した。
隆史も俺のことは「ソラタ」と呼ぶけど、寒い季節には「ユタンポ」って呼ぶ。
冬の冷え込みが厳しい日に隆史に身体を摺り寄せると、嬉しそうにしてくれる。
俺は政宗と同じくらい隆史も好きだから、隆史が嬉しそうだと俺も嬉しい。

でも隆史は、たまに俺のことを「マサムネ」って呼ぶ。
なぜかそう呼ぶのは、いつも俺と隆史が2人だけのときだ。
隆史は政宗を「マサムネ」って呼ぶときには、幸せそうなのに。
俺を「マサムネ」って呼んで抱きしめるときは、つらそうな顔をしている。

俺は「ソラタ」でも「ユタンポ」でもいいけど「マサムネ」は嫌だ。
俺を「マサムネ」って呼ぶときの隆史は、本当に悲しそうだからだ。

ソラちゃんって、抱っこするとあったかいね。
ここ最近、俺は別の家で過ごすことが多くなった。
その家の女の子、日和は俺を抱くといつもそう言って笑うんだ。
そのたびに隆史が「湯たんぽみたいでいいだろう?」と満足げに答える。
おいおい、なんで隆史が偉そうなんだ?
あったかいのは俺で、隆史は何もしてないじゃないか。

日和は俺のことを「ソラちゃん」と呼び、ごくたまに「ユタンポ」と呼ぶ。
他の名前で呼ぶことはないし、いつも幸せそうに笑っている。

俺は「ソラちゃん」でも「ユタンポ」でもいいけど、それ以外の名前は嫌だ。
あの時の政宗や隆史みたいに、寂しそうで悲しそうな日和なんか見たくない。

そう言えば最近隆史は俺のことを「マサムネ」と呼ばない。
たまに会う政宗も俺のことを「リツ」とは呼ばない。
できればもう2度と「ソラタ」と「ユタンポ」じゃない名前で呼ばないでくれよ。
隆史にも政宗にも、いつも笑ってて欲しいと思うから。

【終】
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