高野さんのヒトリゴト

ここまでされても起きないもんかね?
俺は心の中で、この類稀なる才能に拍手を送った。

今回もどうにか入稿を終えての帰り道。
電車の中で隣に座っていた小野寺が眠ってしまった。
俺の肩に頭を乗せて、スースーと寝息を立てて。
向かいの窓に映る小野寺の寝顔は、いつもの反抗的な表情ではない。
穏やかで、歳の割りには幼くて、可愛くて。
しかも無防備に俺に身体を預けている重みが、妙に嬉しかったりする。
初恋の少年が帰ってきたような気になるのは、感傷的すぎるだろうか。
とにかくこの寝顔を壊したくないと思ったら、こいつを背中におぶっていた。

とはいえ小野寺は痩せているとはいえ男で、そこそこ重い。
しかも2人分のカバンを持たなくてはならない。
その状態で自動改札を通るのは、なかなかめんどくさかった。
さらに坂道を登って9分歩く大変さは、もう言い表せない。
少女漫画の世界っていうのは、本当に非現実的だと痛感した。
こういう泥臭い部分は、描かないからな。
俺の担当作家がこういうシーンを生々しく描いてきたら、俺は絶対ネームの段階でカットするだろう。

まったくいい歳の大人が何をやっているんだと思う。
それでも背中に小野寺の温もりや吐息を感じると、こんなのも悪くないかもなどと考えてしまう。
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