Crossing Heart

会社を出て、駅へと向かう道の途中。
小野寺律の横に、一台の乗用車が停まった。
運転席のウインドウがスルスルと降り、一見顔はいいが軽薄そうな男が顔を出す。

「ねぇ、これから遊びに行かない?奢るから。」
声をかけられた律は、辺りをキョロキョロと見回した。
どうやらナンパのようだが、曲がりなりにも自分は男だ。
まさか自分に話しかけているとは、思わなかった。

「君だよ。君に言ってるの。」
男は律の目を見て、ヘラヘラと笑う。
「俺、一応男なんで。」
律はそう答えて、歩き出そうとした。
だが男はすばやくドアを開けて車を降りると、律の手首を掴んだ。
そして声を潜めて、耳元で言う。
「わかってるよ。俺も最近、男にフラれたばっかりなんだ。」
男は顔を歪めて笑った。
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