マスク

「うう。苦しい。。。」
隣の席から木佐のうめき声が聞こえる。
律は「頑張りましょう」と声をかけながら、原稿チェックに取りかかった。

新型ウィルスが日本のみならず、世界中で蔓延している。
律たちの職場も少なからずその影響を受けていた。
今まで当たり前にしていたことができなくなったのだ。
濃厚接触とやらを避けるために、神経を使わなければならない。
仕事中は常にマスクを着用し、何かするたびにこまめに消毒。
どうしても集中力が途切れてしまい、気持ちを保つのが大変だ。

何をしているわけでもないのに、疲れている。
そんな中、月1回の修羅場、もとい締め切りがやって来た。
ただでさえきつい上に、この状況下で。
思わずため息をつきたくなる。
それでも頑張るしかないのだ。
月刊エメラルドを楽しみに待ってくれている読者のために。
こんな時だからこそ、せめて漫画の中だけはいつもと変わらない世界を作りたい。

とはいえ、厳しいなぁ。
律は心の中だけで、何度も弱音を吐いた。
タイムリミットまで、ギリギリの状態で全力疾走するような作業。
普段なら鬱陶しいだけのマスクが、ひどく息苦しい。
ときどき隣の席の木佐が「うう。苦しい。。。」と呻いている。
他のみんなの表情もいつもよりかなり険しい。

「頑張りましょう。」
律は木佐に声をかけると、原稿チェックに戻った。
普段なら作業しながら、ちょっとした甘いものを口にしたりする。
これが気分転換とエネルギー補給にちょうど良いのだ。
ちなみにここ最近の木佐と律のブームはどら焼き。

だが今はそれもままならない。
なぜなら何か食べるならマスクを外さなければならない。
その間も作業を止められないから、そのまま話をすることもある。
つまり感染リスクが上がるということだ。
息苦しく、プチリフレッシュも封じられ、気分は最悪。
それでも何とか作業を終え、律たちは今月の修羅場を超えたのだった。
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