所帯

「勝ってきたぞ」
高野の声はどこか申し訳なさそうだ。
律は「お帰りなさい」と答えながら、気にすることはないのにと苦笑した。

高野と律のお正月。
2人が心を通じ合わせてから、もう何度目だろう。
律は実家に顔は出すものの、泊まらずに戻るのが常となった。
料理上手な高野の手料理に舌鼓を打ちながら、2人だけで過ごす。
最初の頃は一緒に過ごす年末年始にドキドキしていたと思う。

だが最近は穏やかな時間だと思う。
年末年始、ダラダラとテレビを流しっぱなしにした部屋。
そこで食べたり飲んだり本を読んだり、そして時にはベットになだれこんだり。
まったりと正月休みを満喫するのだ。
昔のドキドキが減ったことに気付いた時には、律は少し焦った。
まさかこれが世に言うマンネリなのかと。
だけどすぐに深く考えることはやめてしまった。
ときめかなくなったかもしれないが、幸せだと思えるのだから問題ないだろう。

「本当に悪いな」
「そんな。気にしすぎです。」
「だけど」
「いいんですって」

年明けまであと数時間というところで、外出から戻った高野が悔しそうだ。
高野は近所のスーパーまで行ってきたのだ。
今回の年末、エメラルド編集はアクシデントが重なった。
その結果、最後の最後までバタバタと忙しかったのだ。
そのせいで律も高野も疲労困憊。
だから年末年始は手料理ではなく、出来合いのものを買い求めたのだった。

「へぇぇ。おせちが折詰になってるんだ~」
「その他にも買い置きのものはあるし、酒もある。」
「充分じゃないですか。」

高野は手作りできなかったのが、無念のようだ。
律はその様子に実家の母を思い出して、苦笑した。
絶対に家族に出来合いのものは食べさせないというのが、母のポリシーだったのだ。
おかげで律は高校生になるまで、ファーストフードもレトルトフードも食べたことがなかった。

「高野さんって、結構所帯じみてますね。」
「は?」
「古風な嫁さんって感じ?」

律の言葉に、高野が憮然としている。
ロマンチックではないけれど、こんな年末年始も悪くない。
律は「今年もあと少しですね」と微笑しながら、同意を求めるように首を傾げた。
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