平成から令和へ
「あ~、帰りたい。。。」
律はグチともひとりごとともつかない口調で呟く。
だが高野からすかさず「言うな」とツッコミが入った。
もうすぐ元号が変わる。
だから街はなんとなくお祭りムードだ。
デパートやスーパーなどでは「改元セール」なるものをやっている。
また元号が入った限定商品も店頭やネットでよく見かけるようになった。
だが律たちの仕事は変わらない。
いつもの通り、ゴネる作家に原稿を吐き出させ、本を作る。
修羅場のような締め切りをなんとか乗り越え、あとは帰るのみ。
だが今回に限っては、まだ帰れない。
元号が変わることに伴い、丸川書店も社内システムに修正が入る。
だから各部署で確認作業をしなければならないのだ。
システム担当からの指示で操作をし、画面や書類で確認をする。
エメラルド編集部では、一番下っ端の律と編集長の高野が残ることになった。
「眠い。疲れた。お風呂に入りたい。お腹減った。。。」
2日ほど徹夜し、食事も満足に取らない身体に残業はつらい。
半ば朦朧とした律の口からは、ポンポンと願望がこぼれ出た。
「最後のヤツはできるだろ。何か食ってきていいぞ。」
高野が律の願望を拾って、声をかけてくれる。
今はシステム担当者が切り替え作業を行なっている最中。
それが終わり、日付が変わったところで、不具合がないか確認する。
つまりもうしばらくは待機なのだ。
「やめときます。今お腹が膨れたら確実に爆睡するんで。」
律はそう答えると、両手で頬をパンパンと打った。
そして目の前のパソコンのキーを叩きながら、画面に集中する。
仕事はいくらでもあるのだし、ぼんやりしている時間がもったいない。
だがやはり眠気が買っていて、気を抜けば目を閉じてしまいそうだ。
いつの間にか目を閉じ、首がガクンと落ちたところで、カタンと乾いた音が響いた。
我に返って目を開けた律は、高野が律の席の真横に来ていたことにギョッとする。
慌てて「ね、寝てないです!」と叫ぶが、高野は「怒ってねーよ」と苦笑した。
「それ、差し入れ。」
高野が顎で指したのは、律の机の上に置かれた缶コーヒーだった。
どうやら律が居眠りをしている間に買ってきてくれたらしい。
律は慌てて財布を取り出そうとしたが、先に高野に「俺の奢り」と言われてしまった。
「なんかすみません。」
「別にいい。締め切り終わったばかりで疲れてるんだから。」
「高野さんだって同じじゃないですか」
律は缶コーヒーを飲みながら、高野を見た。
ずっと働きづめで服装こそ少々よれているが、眠気など微塵も感じられない。
それが今の高野と自分の能力の違いに思えて、悔しくなった。
「ハァァ。俺ってまだまだなのかな。」
「何で、そうなる?」
「だって俺はヨレヨレなのに。高野さんは余裕たっぷりに見えるから。」
眠気のせいか、制御も聞かない。
思わず拗ねるような物言いになってしまったことに、律はため息をつく。
だが高野は「余裕なんかあるか」と憮然とした表情になった。
「元号が変わる貴重な瞬間に、好きなヤツと一緒にいるんだぞ。」
「へ?」
「眠気なんか感じる余裕もないんだよ。」
「!」
何てことを言い出すのだ、この男は。
予想もしていない不意打ちに、律は赤面した。
そしてもう1度、高野を見ればニンマリと笑っている。
ああ、やっぱり。この人は性格が悪い。
律は火照ってしまった頬を手であおぎながら、軽く睨んだ。
恥ずかしいし、バカバカしいのに。
令和になっても、律はこの俺様編集長が気になって仕方がないのだ。
律はグチともひとりごとともつかない口調で呟く。
だが高野からすかさず「言うな」とツッコミが入った。
もうすぐ元号が変わる。
だから街はなんとなくお祭りムードだ。
デパートやスーパーなどでは「改元セール」なるものをやっている。
また元号が入った限定商品も店頭やネットでよく見かけるようになった。
だが律たちの仕事は変わらない。
いつもの通り、ゴネる作家に原稿を吐き出させ、本を作る。
修羅場のような締め切りをなんとか乗り越え、あとは帰るのみ。
だが今回に限っては、まだ帰れない。
元号が変わることに伴い、丸川書店も社内システムに修正が入る。
だから各部署で確認作業をしなければならないのだ。
システム担当からの指示で操作をし、画面や書類で確認をする。
エメラルド編集部では、一番下っ端の律と編集長の高野が残ることになった。
「眠い。疲れた。お風呂に入りたい。お腹減った。。。」
2日ほど徹夜し、食事も満足に取らない身体に残業はつらい。
半ば朦朧とした律の口からは、ポンポンと願望がこぼれ出た。
「最後のヤツはできるだろ。何か食ってきていいぞ。」
高野が律の願望を拾って、声をかけてくれる。
今はシステム担当者が切り替え作業を行なっている最中。
それが終わり、日付が変わったところで、不具合がないか確認する。
つまりもうしばらくは待機なのだ。
「やめときます。今お腹が膨れたら確実に爆睡するんで。」
律はそう答えると、両手で頬をパンパンと打った。
そして目の前のパソコンのキーを叩きながら、画面に集中する。
仕事はいくらでもあるのだし、ぼんやりしている時間がもったいない。
だがやはり眠気が買っていて、気を抜けば目を閉じてしまいそうだ。
いつの間にか目を閉じ、首がガクンと落ちたところで、カタンと乾いた音が響いた。
我に返って目を開けた律は、高野が律の席の真横に来ていたことにギョッとする。
慌てて「ね、寝てないです!」と叫ぶが、高野は「怒ってねーよ」と苦笑した。
「それ、差し入れ。」
高野が顎で指したのは、律の机の上に置かれた缶コーヒーだった。
どうやら律が居眠りをしている間に買ってきてくれたらしい。
律は慌てて財布を取り出そうとしたが、先に高野に「俺の奢り」と言われてしまった。
「なんかすみません。」
「別にいい。締め切り終わったばかりで疲れてるんだから。」
「高野さんだって同じじゃないですか」
律は缶コーヒーを飲みながら、高野を見た。
ずっと働きづめで服装こそ少々よれているが、眠気など微塵も感じられない。
それが今の高野と自分の能力の違いに思えて、悔しくなった。
「ハァァ。俺ってまだまだなのかな。」
「何で、そうなる?」
「だって俺はヨレヨレなのに。高野さんは余裕たっぷりに見えるから。」
眠気のせいか、制御も聞かない。
思わず拗ねるような物言いになってしまったことに、律はため息をつく。
だが高野は「余裕なんかあるか」と憮然とした表情になった。
「元号が変わる貴重な瞬間に、好きなヤツと一緒にいるんだぞ。」
「へ?」
「眠気なんか感じる余裕もないんだよ。」
「!」
何てことを言い出すのだ、この男は。
予想もしていない不意打ちに、律は赤面した。
そしてもう1度、高野を見ればニンマリと笑っている。
ああ、やっぱり。この人は性格が悪い。
律は火照ってしまった頬を手であおぎながら、軽く睨んだ。
恥ずかしいし、バカバカしいのに。
令和になっても、律はこの俺様編集長が気になって仕方がないのだ。
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