クリスマスの後に

「いいかげん、機嫌を直してくれませんか?」
律はウンザリした声で、そう言った。

高野と再会してから、はや数年。
もう何回か、2人で一緒に高野の誕生日を過ごした。
高野の誕生日はクリスマスイヴでもある。
プレゼントを交換し、いつもよりはしゃいで、楽しく甘い夜を過ごす。
それが恋人同士になった彼らの通例となっていたのだが。

今年はそれができなかった。
律の実家の母がインフルエンザにかかり、寝込んでしまったからだ。
命に別状はないらしいし、別に律にできることもない。
年に1度の恋人誕生日、しかもクリスマスイヴ。
帰る必要なんかないと思いつつ、心は痛む。
実家に帰るたびに、年を取ったなと思う両親。
こんなときくらい何もできなくても帰るべきなのだろうか?

「俺のことはいいから、実家に帰れ」
浮かない表情の律に、高野はそう言ってくれた。
律の迷いなどお見通しなのだろう。
「誕生日は毎年あるんだ。1回くらいやらなくてもいいだろう。」
高野は穏やかに笑って、そう言ってくれた。

ああ、やっぱりこの人は大人だ。
律は高野に感謝し、そして尊敬した。
誕生日、クリスマスは一緒にいないといけないという律の固定観念を吹き飛ばしてくれた。
記念日を一緒に過ごさなくても、別に2人の仲はどうなるものではないのだ。
だから律は、今年だけは実家でクリスマスを過ごすことにしたが。

クリスマスの盛り上がりが終わり、年末ムードが高まった12月26日。
数日ぶりにマンションに戻った律は、途方に暮れていた。
久しぶりに向かい合った途端、高野は「1人で寂しかった」なんて言い出したからだ。
しかも一言で終わらず、くどくどと繰り返すのだ。

「いいかげん、機嫌を直してくれませんか?」
律はウンザリした声で、そう言った。
まったく大人げない。
物わかりのいい顔で送り出してくれた恋人は、いったいどこに行ったのか。

それでも甘えられているというのは、悪い気はしないものだ。
しかも会社では鬼編集長で通っている高野が拗ねている。
こんな姿を見られるのは恋人の特権と思えば、楽しくさえ思えるのだ。
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