本当は嬉しい
「やはり賛成できません!」
きっぱりと断言した新人編集は、挑みかかるように相手を見据えている。
横澤はそんな命知らずの行動に、秘かにため息をついていた。
丸川書店の会議室では、ミスマッチな2人が向かい合っていた。
ジャプンの敏腕編集長、桐嶋禅と、エメラルドの新人編集、小野寺律だ。
2ヶ月後、偶然ジャプンとエメラルドが重なる。
この日発売の号の掲載原稿で、ちょっとしたコラボレーション企画が進行中なのだ。
該当する作品は、桐嶋の担当のかの有名な伊集院響の作品と、律の担当の佐藤伊織の作品。
2つの作品の主人公は実は知り合いで、電話で会話をするというものだ。
同日発売のそれぞれの作品では、主人公が話している内容しかわからない。
それはそれで、話の流れはちゃんと繋がる。
だが両方を読めば、2人の会話が全部わかって、さらに面白い。
ぶっちゃけ日頃どちらかしか読まないファンに、両方読んでもらおうという企画だった。
会話の内容は、それぞれの担当編集2人が会議で決めることになった。
それが2人が向かい合っている原因だ。
サポートするのは桐嶋の部下の加藤と、律の上司の高野。
この企画を事前に宣伝するため、営業の横澤と逸見も会議に加わった。
横澤としては、何の因果なんだと思う。
かつて惹かれていた男、高野と、その想い人、律。
さらに現在の恋人である桐嶋が、同じ場に集まるなんて。
だが仕事であるのだから、やるしかないと腹をくくった。
個人的な感情は捨てて、ビジネスライクに話を進めるしかない。
思いのほか、話し合いは難航した。
双方が掲載分の原稿の話の流れをサラリと話し、キャラたちのからみ方の案を出す。
だがそれがどうしても噛み合わないのだ。
「そんなに深い意味を持たせずに、ギャグっぽい軽い感じにしたい。」
「わざわざコラボするんですよ?『ついで』みたいな発想ではダメだと思うんです!」
「だけど無理に大きな意味を持たせると、本来の流れに差し障るだろう。」
「それはわかっています。だけどギャグっぽくするのには、やはり賛成できません!」
「元々作風が違うんだ。重要なシーンにしてしまうと違和感が出る。」
桐嶋と律がお互いの見解を話し合うものの、堂々巡りを繰り返す。
そして律からは絶対に意見を変えないという気負いが見えた。
それが妙に横澤の気に障る。
どちらの意見も筋は通っている。
だがそれならば律が折れるべきなのだと思う。
仕事のキャリアだって、発行部数だって、桐嶋と伊集院のコンビが上なのだ。
まったくどうしていつも俺の神経を逆なでするんだ。
横澤はついつい律を睨みそうになってしまうのを、懸命に堪えていた。
きっぱりと断言した新人編集は、挑みかかるように相手を見据えている。
横澤はそんな命知らずの行動に、秘かにため息をついていた。
丸川書店の会議室では、ミスマッチな2人が向かい合っていた。
ジャプンの敏腕編集長、桐嶋禅と、エメラルドの新人編集、小野寺律だ。
2ヶ月後、偶然ジャプンとエメラルドが重なる。
この日発売の号の掲載原稿で、ちょっとしたコラボレーション企画が進行中なのだ。
該当する作品は、桐嶋の担当のかの有名な伊集院響の作品と、律の担当の佐藤伊織の作品。
2つの作品の主人公は実は知り合いで、電話で会話をするというものだ。
同日発売のそれぞれの作品では、主人公が話している内容しかわからない。
それはそれで、話の流れはちゃんと繋がる。
だが両方を読めば、2人の会話が全部わかって、さらに面白い。
ぶっちゃけ日頃どちらかしか読まないファンに、両方読んでもらおうという企画だった。
会話の内容は、それぞれの担当編集2人が会議で決めることになった。
それが2人が向かい合っている原因だ。
サポートするのは桐嶋の部下の加藤と、律の上司の高野。
この企画を事前に宣伝するため、営業の横澤と逸見も会議に加わった。
横澤としては、何の因果なんだと思う。
かつて惹かれていた男、高野と、その想い人、律。
さらに現在の恋人である桐嶋が、同じ場に集まるなんて。
だが仕事であるのだから、やるしかないと腹をくくった。
個人的な感情は捨てて、ビジネスライクに話を進めるしかない。
思いのほか、話し合いは難航した。
双方が掲載分の原稿の話の流れをサラリと話し、キャラたちのからみ方の案を出す。
だがそれがどうしても噛み合わないのだ。
「そんなに深い意味を持たせずに、ギャグっぽい軽い感じにしたい。」
「わざわざコラボするんですよ?『ついで』みたいな発想ではダメだと思うんです!」
「だけど無理に大きな意味を持たせると、本来の流れに差し障るだろう。」
「それはわかっています。だけどギャグっぽくするのには、やはり賛成できません!」
「元々作風が違うんだ。重要なシーンにしてしまうと違和感が出る。」
桐嶋と律がお互いの見解を話し合うものの、堂々巡りを繰り返す。
そして律からは絶対に意見を変えないという気負いが見えた。
それが妙に横澤の気に障る。
どちらの意見も筋は通っている。
だがそれならば律が折れるべきなのだと思う。
仕事のキャリアだって、発行部数だって、桐嶋と伊集院のコンビが上なのだ。
まったくどうしていつも俺の神経を逆なでするんだ。
横澤はついつい律を睨みそうになってしまうのを、懸命に堪えていた。
1/3ページ