横澤さんの恋人
実はちょっと落ち込んでまして。
その言葉通り、雪名は肩を落としている。
王子様は落ち込む仕草さえ美しい、と木佐は少々呆れていた。
今日も雪名は木佐の部屋に来ている。
甲斐甲斐しく食事の支度をして、家主がいない間に掃除と洗濯もする。
それでも少しも所帯じみて見えないのは、王子様の所以だ。
木佐は今日もありがたく雪名特製の夕飯にありついている。
雪名の作る食事はいつもボリュームがある。
もう少し胃に優しいものをと言いたくなる時もある。
だが1人だとカップラーメンなどで済ませるのだから、それよりはかなり健康的ではあるのだが。
実はちょっと落ち込んでまして。
食事が始まるや否や、雪名はそう切り出した。
木佐は箸を動かしながら「何?」と聞いた。
ここは社会人の貫録で、しっかりと受け止めてやろうと思った。が。
俺のバイト先の同僚が、横澤さんのことを好きで。
木佐は思わず口に含んだ米粒を吐き出しそうになった。
だが次の瞬間には、知らないうちに前のめりになっていた。
出てきたのはよく知っている人物の名前で。しかも恋愛沙汰。
興味もあるし、少女漫画編集の血も騒ぐ。
その人、松本さんっていう女性なんですが。
電車の中で痴漢にあってたのを、横澤さんに助けてもらったそうなんです。
それがきっかけで好きになって。
で、俺もうまくいけばいいなと思って、協力したんです。
サイン会の打ち上げの時に、さり気なく隣同士の席に誘導したり。
松本さんには「頑張れ!」って声援を送ったりなんかして。
それで、それで?
木佐は興味津々で雪名の話を聞いていた。
普通にしているだけで顔が怖い横澤に、惚れる女がいるのが驚きだ。
それに最近、横澤は以前より態度が柔らかくなったという評判も聞く。
もしかしてその松本という女性と付き合っているのだろうか?
ダメだったそうです。
告白する前に「交際している相手がいる」って、釘を刺されたって。
俺が「頑張れ」なんて、変に煽ったせいで、失恋させちゃって。
雪名はため息をつき、箸を持つ手も止まっていた。
その結末を聞いてから、雪名は申し訳ない気持ちでいっぱいなのだ。
よく知らないのに、無責任にくっつけようとした結果、松本は傷ついただろう。
横澤だって、後味の悪い思いをしたはずだ。
お前のせいじゃねーだろ。
物思いに沈みそうになる雪名に、木佐はごく自然にそう声をかけていた。
王子様が顔を曇らせているのは、似合わない。
その言葉通り、雪名は肩を落としている。
王子様は落ち込む仕草さえ美しい、と木佐は少々呆れていた。
今日も雪名は木佐の部屋に来ている。
甲斐甲斐しく食事の支度をして、家主がいない間に掃除と洗濯もする。
それでも少しも所帯じみて見えないのは、王子様の所以だ。
木佐は今日もありがたく雪名特製の夕飯にありついている。
雪名の作る食事はいつもボリュームがある。
もう少し胃に優しいものをと言いたくなる時もある。
だが1人だとカップラーメンなどで済ませるのだから、それよりはかなり健康的ではあるのだが。
実はちょっと落ち込んでまして。
食事が始まるや否や、雪名はそう切り出した。
木佐は箸を動かしながら「何?」と聞いた。
ここは社会人の貫録で、しっかりと受け止めてやろうと思った。が。
俺のバイト先の同僚が、横澤さんのことを好きで。
木佐は思わず口に含んだ米粒を吐き出しそうになった。
だが次の瞬間には、知らないうちに前のめりになっていた。
出てきたのはよく知っている人物の名前で。しかも恋愛沙汰。
興味もあるし、少女漫画編集の血も騒ぐ。
その人、松本さんっていう女性なんですが。
電車の中で痴漢にあってたのを、横澤さんに助けてもらったそうなんです。
それがきっかけで好きになって。
で、俺もうまくいけばいいなと思って、協力したんです。
サイン会の打ち上げの時に、さり気なく隣同士の席に誘導したり。
松本さんには「頑張れ!」って声援を送ったりなんかして。
それで、それで?
木佐は興味津々で雪名の話を聞いていた。
普通にしているだけで顔が怖い横澤に、惚れる女がいるのが驚きだ。
それに最近、横澤は以前より態度が柔らかくなったという評判も聞く。
もしかしてその松本という女性と付き合っているのだろうか?
ダメだったそうです。
告白する前に「交際している相手がいる」って、釘を刺されたって。
俺が「頑張れ」なんて、変に煽ったせいで、失恋させちゃって。
雪名はため息をつき、箸を持つ手も止まっていた。
その結末を聞いてから、雪名は申し訳ない気持ちでいっぱいなのだ。
よく知らないのに、無責任にくっつけようとした結果、松本は傷ついただろう。
横澤だって、後味の悪い思いをしたはずだ。
お前のせいじゃねーだろ。
物思いに沈みそうになる雪名に、木佐はごく自然にそう声をかけていた。
王子様が顔を曇らせているのは、似合わない。
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