ドラマチック・メーカー

まったく、おかしい!
目の前には美しい満開の桜並木、そして横には大好きな人。
それなのに律は、納得いかない気分だった。

お前の誕生日、俺とデートな。
今や完全に恋に堕ち、両想いになった高野にそう言われたのは1ヶ月も前のことだ。
もちろん嬉しい。
せっかくの誕生日に、好きな人と一緒に過ごせるのだから。

だが律は負けず嫌いの上、恥ずかしがり屋なのだ。
一方的に決め付けるような言い方に怒り、デートという言葉に照れる。
だから心ならずも「忙しいし、別にいいですよ」とことわった。
しかも律は見かけによらず、頑固だ。
その後高野が何度誘っても、首を縦に振らなかった。

じゃあ、お前の誕生日に何かドラマチックなことが起きたら、デート。
どうにも折れない律に、高野は交換条件を出した。
そして律も「それならいいですよ」と同意した。

これ以上拒否し続けるのも、さすがに大人気ない。
それに早々ドラマチックなことなんて、起きないだろう。
だからこのこの話は、もうこれでおしまい。
律としては、そんなつもりだった。

だがドラマチックは起きた。
東京では3月中にはまず見頃にならないはずのソメイヨシノ。
それがじつに鮮やかに満開になったのだ。
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