熱中症

あんなに大声で怒鳴って、恥をかかせることないじゃないか!
律は隣人であり上司の男の顔を思い浮かべながら、ずっと悪態をついていた。

律が仕事でミスをした。
本当にちょっとしたミスだった。
理由はわかっている。
この夏の初めに、自宅のエアコンが壊れてしまったせいだ。
修理をしたいのはやまやまだが、最近とにかく忙しい。
時間もあまりないし、部屋がとにかく散らかっているので業者を呼ぶのも恥ずかしい。
そんなこんなで先延ばしにしているうちに、猛暑到来。
熱くて寝苦しくて、どうしても寝不足になる。
そしてついつい注意力が散漫になってしまっていたのだ。

もちろん言い訳をするつもりなどなかった。
小さくても何でも、ミスをしたことは間違いないのだから。
作家はとにかく平謝りに謝った。
他の編集部員たちにももちろん同様に。
作家は「こんなの気にするほどのミスじゃないですよ」と言ってくれた。
フォローしてくれた編集部員たちだって「よくあることだ」と笑っている。

だが高野だけは、それを許さなかった。
フロア中に響き渡るような大きな声で、律を怒鳴りつけたのだ。
他の編集部員のミスなどで、高野がこんなに声を荒げることはないのに。
やっぱりあの人が俺のことが好きだなんて、絶対に嘘だ。
そんな風に思ってしまうのは、身体が弱っているせいだろうか?

深夜、ようやく家に帰り着いた律はそのまま玄関に倒れこんだ。
ああ、とにかく寝たい。
ああ、その前に早く着替えたい。
でももう体力が限界だ。
5分だけここで寝る。。。
そう思いながら、律は玄関で靴も脱がない状態で目を閉じた。

あの横暴上司、俺のことが好きだなんて、絶対に嘘だ。
律は眠りに落ちる瞬間、心の底からそう思った。
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