明日天気になあれ

はっくしゅん!
壁越しに大きなくしゃみの声を聞いた律は、かすかに顔をしかめた。

ここ最近、天気はすごく不安定だ。
晴れていたと思ったら、急に雷が鳴り出して、雨が降り出したりする。
まるで台風のような暴風をともなう、横殴りの豪雨だ。
かと思えば30分程度で、また何事もなかったように晴れ上がる。

天気予報などでは「外出を避けましょう」なんて、簡単に言ってくれる。
だけど会社で働く人間はそうはいかない。
通勤も、仕事で作家を訪ねるのも、予め日付と時間が決まっているのだ。
暴風雨だからやめますなんて言っていたら、仕事にならない。

今日、そんな豪雨の犠牲になったのは、高野だった。
最近、高野の担当作家の連載が終了し、新しい連載の準備で忙しい。
内容を打ち合わせしたり、資料を集めて届けたり、とにかく外出が多いのだ。
今日もたまたま作家の仕事場に足を運んだ帰りに、雨に降られてしまった。
折りたたみの傘を持ってはいたが、強風であっけなく壊れてしまったのだという。
高野はずぶ濡れで会社に戻り、濡れた身体を拭くのもそこそこに会議に行ってしまった。

そのまま夜になり、律は高野と顔を合わせることもなく帰宅した。
例によってコンビニ弁当による夕飯や入浴もすませ、寛いでいたときに聞こえた隣室のくしゃみ。
律はかすかに顔をしかめて、小さくため息をついた。

大丈夫なのだろうか。
高野は最近やたらと忙しいのに、雨に濡れて、そのまま仕事をして。
身体はそれなりに頑丈なのだろうが、やっぱりつらいのではないだろうか。
律はそんなことをつらつら考えたが、実際にできる事がないこともわかっている。
高野の仕事に介入もできないし、雨を止ませることもできない。
明日も確か高野は打ち合わせだったはずだが、テレビの天気予報は「雷雨に注意」と言っている。

それなら、せめて。
律は部屋中から「材料」をかき集め始めた。
白い紙と、輪ゴム、油性のマジック等々。
作るのは、昔懐かしい「アレ」だ。
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