プレゼント

「これ、ください。」
小野寺律は店のショーケースに飾られた商品を指差して、そう言った。
そして「プレゼント用にラッピングして下さい」と言い添える。
折りしも時期はクリスマス、プレゼント包装を頼む客は少なくないだろう。
若い女性の店員はよどみない口調で「かしこまりました」と笑顔で答えた。

ここは丸川書店近くの革製品を扱うショップだった。
腕のいい職人が作る一点物の小物やアクセサリーを置いている。
律自身も、この店の製品の愛用者だった。

決して有名なブランドではない。
だが財布もカバンなどは軽くて使いやすいのに頑丈で、使い込むほどに味が出てくる。
デザインもシンプルで、実用的。何よりもロゴがいい。
有名ブランドのような悪趣味とも思える自己主張がない。
職人のイニシャルが、趣味のいい飾り文字で小さく目立たないように刻まれているだけだ。

元々ここは両親が贔屓にしている店だ。
律の両親は日用品はケチらずいい物を使えという金持ちらしいポリシーを持っており、律もそれを受け継いでいた。
事実この店の品物は、律くらいの年齢の者が持つ物としては、どれも値が張っている。
だけど律は多少生活を切り詰めても、この店の製品を使い続けたいと思っている。

だが今日この店に来たのは、自分の物を購入するためではない。
律は大事な人へのプレゼントを買いに来たのだった。
そして彼に似合いそうなシンプルな黒皮のそれを見つけて笑顔になる。

すみません。あとこれも。
それでラッピングなんですけど。。。
律がさらに注文をつけると、女性店員は一瞬意外そうな顔になる。
だがすぐに「かしこまりました」と笑顔で答えてくれた。
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