冬の花火

まったくアイツは!
高野は姿が見えなくなった青年に、心の中で悪態をついた。

高野政宗は小野寺律と共に、東北に来ている。
残念ながら、観光旅行ではなく仕事だ。
自分の担当作家の1人を、律に担当させるため。
作家との引継ぎを兼ねた打ち合わせと会食をした。
そして今日はこの地で一泊する。

正直言って、テンションはかなり上がっている。
いくら仕事のための出張とはいえ、恋する相手とのお泊り旅行なのだから。
それなのに、その想い人ときたら!
作家の前では実ににこやかで、可愛らしい笑顔を見せていたというのに。
こうして高野と2人になった途端、まるで拭き取ったように笑顔は消えた。
祭りを見物しようと誘っても「さっさとホテルに」などとかわいくないことを言う。

そんな律に笑顔が戻ったのは、打ち上げられた花火だった。
この地の名物であるらしい、季節はずれの冬の花火。
律は「うわぁ」と声を上げて、空に咲いた美しい花に見とれていた。
まるで10年前に戻ったような無邪気な律の笑顔。
その綺麗な横顔が、花火に照らされて映える。
決して花火にも負けていない美しさだ。
高野は秘かにそんなことを思い、こっそりと笑う。
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