メガネトリック

帰宅した小野寺律は、持ち帰った仕事をしようとカバンをあけて、それに気がついた。
見覚えのある箱は、メガネケース。
日々律を疲労困憊させる俺様上司のものだ。

どうして自分のカバンにこれがと考えて、律は小さく「あ」と声を上げた。
今日は高野と一緒に出かけた打ち合わせ先で、忙しく動き回る先方の人間とぶつかった。
その時高野も律もカバンを落として、中身を床にぶちまけてしまったのだ。
慌てて拾い集めたときに、高野のメガネが紛れ込んだのだろう。
今日はそこから直帰だったから、気付かずに持ち帰ってしまったのだ。

原因はわかったけど、問題はその先だ。
もちろんメガネを高野に返すのだが、いつどうやって?
今晩中に返すには、律が隣の高野宅に行くか、高野を律の部屋に呼ぶことだ。
律はブンブンと首を振った。
ぜったいに流されて、いかがわしいコトをいたすことになる。
返すのは明日にしよう。
そこまで考えて、律はまた考える。

高野も律同様、今日は仕事を持ち帰っているはずだ。
メガネがなければ、かなり不自由なはずだ。
明日になって「間違って持って帰ってました」なんて言おうものなら、どんなパワハラをされるか。
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