エメラルド

丸川書店に転職して、月刊エメラルドの編集長になるにあたって。
高野は「エメラルド」という言葉について、いろいろ調べた。

世界の4大宝石にも数えられているとか。
クレオパトラがエメラルドをこよなく愛していたとか。
ヨーロッパでは、蛇がエメラルドを凝視すると目が見えなくなる言い伝えがあるとか。
キリストが最後の晩餐で使用した杯は、綺麗なエメラルドだったとか。
その原石は大天使ミカエルが魔王ルシファーの王冠から叩き落したエメラルドだとか。
そのほかエメラルドの所有者は経済的に富裕になる、病気の予防になる、未来を予言できる等々。

さすがインターネット。
ちょっと検索すればエメラルドにまつわる話が、いくらでも出てくる。
だが残念なことに、ピンと来る話はなかった。

高野としては、自分が編集長になる雑誌なのだ。
本音を言えば、その名前くらい自分で決めたかった。
だが命じられたのは月刊エメラルドの建て直しだった。
せめてエメラルドという名前に特別な意味でも見出せればと思ったのだ。

まぁ仕方ない。
頑張って売り上げを伸ばして、実績を重ねればいい。
そうして名前を変えるなり、新しい雑誌の編集長になれれば。
周囲に力を認めさせれば、いつかそういう希望も通せるだろう。

そうして1年。
月刊エメラルドをトップに押し上げたときには、もう気にならなくなっていた。
エメラルドという名前にも、それなりに愛着も出てきたし。
そもそも忙しくて、そんなことはもうどうでもよくなったというのが本音だった。
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