髪色談議

「綺麗な色だね」
木佐翔太はそう呟いて、隣の席の小野寺律をマジマジと見つめた。
律は木佐の視線に気付いて「何ですか?」と怪訝そうに小首をかしげる。
「いや、律っちゃんの髪の色って綺麗だと思ってさ。」
木佐はそう言って、さらに不躾に律の髪に手を伸ばした。
律は「そうですか?」と、上目遣いに自分の前髪を見た。

木佐が髪の色なんて言い出したのには、もちろん理由がある。
実は数日ほど前、前髪の中に白く光る1本を発見したのだ。
木佐だって若く見えるけど、もう三十路。
しかも仕事でハードな生活をしている。
こういうところに年齢が現れるのは、いかんともしがたいところだ。
木佐は鏡を見ながら、見つけた白髪を引き抜いた。
だが抜いたってまた生えてくるだろうし、今後増えることはあってもなくなることはない。

今までだったら、1本の白髪でここまで落ち込むことはなかっただろう。
だが今は若い恋人が「お泊まり会」と称して、家に居座っている。
白髪などとは無縁な歳が離れた恋人に、こんなことは知られたくない。
さてどうしたものか。
そしてふと隣に座る律の髪が目に入ったのだった。

律の髪は明るめの茶というか、栗色というか、不思議な色合いだ。
木佐の黒い髪と違って、光の当たり方で微妙にその輝きを変える。
律は色が白いから、なおさら髪色が映える。
最初は染めているのかと思ったが、根元が黒くならないところをみると、地の色なのだろう。

触れてみると男にしては細い木佐の髪より、律の髪はさらに細い。
サラサラとしていて、それでいてしっとりしていて、若いって羨ましいと思う。
いっそ自分も髪を染めようか?
黒髪だと白く光る髪は目立って仕方ないし。
だけど童顔な自分には、黒い髪が一番似合うことも承知している。
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