エレジー

横澤隆史は会社近くのバーのカウンター席で、グラスを傾けていた。
隣に座るのは大学時代からの友人であり、同じ会社の同僚である高野政宗だ。
黙って酒を飲んでいた2人だったが、高野が急に口元を緩ませた。
横澤は「思い出し笑いか?」と横目で高野を見ながら、聞いた。
高野は「まぁ、ちょっと」と曖昧に答えながら、さらにグラスを口に運んだ。
横澤は気づいている。
高野がこんな風に笑うのは、最近編集部に配属された新人に関することだけだ。

今度入った新人が実は10年前の初恋の相手だった
横澤が高野からそれを聞かされたのは、つい最近のことだ。
しかもそれを言うとき、高野は微笑していた。
高野は間違いなく初恋の相手-小野寺律との再会を喜んでいるのだ。

高野にしてみれば、横澤はあくまでも良き友人だ。
かつてベットを共にしたときでさえ、高野の方には恋愛とか付き合うという意識はなかった。
しかも心を許した友人と思ってくれるから、昔の恋の話も隠すことなく打ち明けてくる。

だが横澤は違う。あの時も今も変わらず高野が好きだ。
だから自分以外の相手との恋に溺れる高野など見たくないし、そんな話を聞かされるのもつらい。
いっそ高野をここまで夢中にさせている青年を、高野の目の触れない場所に追いやってしまいたい。

だがそんなことを露骨に口にすれば、聡い高野は横澤の気持ちに気付いてしまう。
横澤と友人であることもやめて、距離を取ってしまうだろう。
それは何よりも横澤が恐れることだった。
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