あなたのにおい

それは快挙だった。
ついに律が提出した企画書に、高野が「一発OK」を出したのだ。
今までの律の企画書の中でも秀逸の内容だ。
すでに時間も遅く、編集部に残っているのは高野と律だけだ。
律は誰に気兼ねすることなく「やった-!!」と叫んだ。

よく頑張った。
そんな気持ちで、高野は律の頭に手を伸ばした。
髪をくしゃくしゃとなでてやるつもりで。
いつもしている仕草だし、特に深く考えてしたことでもない。
だが律は身体を捩り、高野の手をスルリと避けたのだ。

「何で避けんだよ!」
「高野さん、さっきまでタバコ吸ってたでしょ!」
「だから何だ?」
「髪ににおいがつくじゃないですか!」

確かについ先程まで、高野は自分の席でタバコを吸っていたのだ。
当然指先には、たっぷりとタバコのにおいが残っている。
律はそれが髪に移るのを嫌がっているのだ。

「高野さん、そんなに俺の髪に触りたかったら禁煙してください!」
「禁煙したら、触っていいの?」
「・・・・・・ダメです。」
「はぁぁ!?」

ほとんど子供のケンカだ。
もしここに誰かがいて、このやりとりを見ればそう思っただろう。
だが当の2人はいたって真剣だったりする。
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