美咲と律のホワイトデー
「こんにちは」
見覚えのある美人を見かけ、美咲は丁寧に頭を下げる。
1か月前、たった1度の出会いだったが、相手も覚えていてくれたようだ。
高橋美咲は丸川書店の廊下を歩いていた。
ジャプン編集部から総務へ、書類のお使いである。
まだ内定社員であるから、雑用が多いのは仕方ない。
早く社員になって、ちゃんとした仕事がしたいと思う。
編集部へ帰る道すがら、向こうから見覚えのある美人が歩いてきた。
エメラルド編集部の小野寺律だ。
1か月前のバレンタインデーのとき、ちょっとした手伝いをした。
その時以来の再会だった。
「こんにちは」
咄嗟に頭を下げたものの、美咲は「あ!」と思った。
向こうは特徴ある美人だが、こっちは平凡な顔立ちだと思う。
果たして1回しか会っていない自分を覚えていてくれるのか。
だが律は笑顔で「高橋君、久しぶり」と笑ってくれた。
「よかった覚えててくれて。」
美咲はホッとしながら、もう1度頭を下げる。
そしてふと目に入った律の手元に、目を瞠った。
なぜなら彼は両手に大きな紙袋を持っていた。
そして袋の中は菓子折りらしい箱がぎっしり入っている。
「あ、これ。ホワイトデーだよ」
「え?バレンタインデーのお返しですか?」
「うん。エメ編宛てに他の部署から結構もらうから」
「大変っすね」
この人、まだ雑用やらされてるんだ。
美咲はそう思い、心から律に同情した。
前に会った時には、バレンタインチョコと格闘していた。
そして今はお返しのお菓子を配って歩いている途中らしい。
結局、社員になっても雑用多いのかな。
美咲はそんなことを考えたが、どうやら顔に出ていたらしい。
律は「これもれっきとした仕事だよ」と笑った。
「すみません。編集だけが仕事じゃないですよね。」
「違うって。これも編集に役立つんだよ?」
「え?」
「こういうのを渡すときの雑談に、ヒントがあるんだ。」
「ヒント?」
「若い女性の趣味とか意見とか、いろいろ聞けるからね。」
穏やかに笑う律に、美咲は「失礼しました!」と叫んでいた。
そして「これがプロかぁ」と感心する。
確かにエメラルド編集部なら、若い女性の意見をリサーチするのは重要だろう。
ホワイトデーのお返しを、その絶好のチャンスとするとか。
まさしくプロの神髄を見た気分である。
「そんなカッコいいもんじゃないから。それじゃまた。」
律は笑顔のまま、挨拶と共に去っていく。
すっかり感動モードの美咲は、その後ろ姿にもう一度頭を下げた。
見覚えのある美人を見かけ、美咲は丁寧に頭を下げる。
1か月前、たった1度の出会いだったが、相手も覚えていてくれたようだ。
高橋美咲は丸川書店の廊下を歩いていた。
ジャプン編集部から総務へ、書類のお使いである。
まだ内定社員であるから、雑用が多いのは仕方ない。
早く社員になって、ちゃんとした仕事がしたいと思う。
編集部へ帰る道すがら、向こうから見覚えのある美人が歩いてきた。
エメラルド編集部の小野寺律だ。
1か月前のバレンタインデーのとき、ちょっとした手伝いをした。
その時以来の再会だった。
「こんにちは」
咄嗟に頭を下げたものの、美咲は「あ!」と思った。
向こうは特徴ある美人だが、こっちは平凡な顔立ちだと思う。
果たして1回しか会っていない自分を覚えていてくれるのか。
だが律は笑顔で「高橋君、久しぶり」と笑ってくれた。
「よかった覚えててくれて。」
美咲はホッとしながら、もう1度頭を下げる。
そしてふと目に入った律の手元に、目を瞠った。
なぜなら彼は両手に大きな紙袋を持っていた。
そして袋の中は菓子折りらしい箱がぎっしり入っている。
「あ、これ。ホワイトデーだよ」
「え?バレンタインデーのお返しですか?」
「うん。エメ編宛てに他の部署から結構もらうから」
「大変っすね」
この人、まだ雑用やらされてるんだ。
美咲はそう思い、心から律に同情した。
前に会った時には、バレンタインチョコと格闘していた。
そして今はお返しのお菓子を配って歩いている途中らしい。
結局、社員になっても雑用多いのかな。
美咲はそんなことを考えたが、どうやら顔に出ていたらしい。
律は「これもれっきとした仕事だよ」と笑った。
「すみません。編集だけが仕事じゃないですよね。」
「違うって。これも編集に役立つんだよ?」
「え?」
「こういうのを渡すときの雑談に、ヒントがあるんだ。」
「ヒント?」
「若い女性の趣味とか意見とか、いろいろ聞けるからね。」
穏やかに笑う律に、美咲は「失礼しました!」と叫んでいた。
そして「これがプロかぁ」と感心する。
確かにエメラルド編集部なら、若い女性の意見をリサーチするのは重要だろう。
ホワイトデーのお返しを、その絶好のチャンスとするとか。
まさしくプロの神髄を見た気分である。
「そんなカッコいいもんじゃないから。それじゃまた。」
律は笑顔のまま、挨拶と共に去っていく。
すっかり感動モードの美咲は、その後ろ姿にもう一度頭を下げた。
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