美咲と律のバレンタインデー
「よろしくお願いします。」
優しそうな青年に頭を下げられて、美咲は慌てて「こちらこそ」と深々と一礼する。
そして改めて見てみると、彼は超絶美人だった。
高橋美咲は、丸川書店の内定社員である。
大学はもうほとんど授業がない。
時折会社のセミナーやらOJTなどを受けながら、正式入社を待つ日々だ。
だがこの日は少々特殊な「任務」を言い渡された。
「今日はいつもとちょっと違う仕事をしてもらう。」
「はぁ。どのような?」
「××会議室に行ってくれ。指示はそこで受けてくれ。」
実に端的な説明を受けて、指定場所に赴いた美咲は面食らった。
そこで待っていたのは、白い割烹着姿の青年だった。
ビニールの帽子と手袋、そして白いマスクも着けている。
食品工場の作業員か、はたまた給食係か?
思わずそんなツッコミを入れたくなるスタイルである。
「ええと。高橋美咲君?」
青年は美咲に声をかけながら、マスクと帽子を取った。
そして「よろしくお願いします」と頭を下げる。
美咲は慌てて「こちらこそ」と深く一礼した。
そして改めて、青年を見て気付く。
彼は超絶美人だった。
「エメラルド編集部の小野寺律です。」
青年は丁寧に名乗った後、再びマスクと帽子を身に着けた。
そして美咲に「君も着てくれる?」と会議机を指差す。
そこには彼のものと同じ白い割烹着とマスク、帽子があった。
美咲は「はい」と頷き、それらを身に着けながら、部屋を見回した。
ここは10名程度で満杯になる、丸川書店の中では小さな部類の会議室だった。
机の上には大きな段ボールが数個、そしてその中には小さな包みがぎっしり入っている。
それが何なのかは聞かなくてもわかった。
今の時節柄、そして漂う甘い匂い。
ここにはものすごい数のバレンタインチョコがあったのだ。
「ええと。俺は何をすれば」
「お願いしたいのは、チョコレートの仕分けと梱包」
「へ?」
「送られてきたバレンタインチョコをチェックして、バラして、詰め直すんだ」
「はぁ」
毎年バレンタインデーには、出版社にはすさまじい数のチョコが届く。
作家宛てのものも多くある。
だがそれ以上に多いのは作品のキャラ宛てのものだ。
それらはすべて作家にお伺いを立てる。
全て送って欲しいという作家ももちろんいる。
だけど全部は無理なので、編集部で食べて欲しいという作家だっている。
別にその作家が薄情というわけではない。
結構な数なので食べきれず、捨てるくらいなら編集部のおやつにしてくれという厚意だ。
そこで今日の仕事、全てのチョコをチェックするのだ。
まず全て開封して、異変がないか確かめる。
ごくごく稀に嫌がらせのようなものもあるので、それは取り除く。
そして全部を希望する作家には、そのまま送る。
問題はいらないと答えた作家のものだ。
もしも手紙などのメッセージなどが付いていたら、それは送る。
手作りのものも同じ扱いだ。
さすがに手間暇かけた力作は作家に届けるべきと判断している。
そして市販のものは全て箱から出して、バラバラにする。
そこから数個ずつを小さな封筒状のセロファン袋に入れて、小さな包みを作るのだ。
それらは近隣の児童養護施設や子供食堂などに寄贈する。
「それは大変な作業ですねぇ」
「うん。そんなの手伝わせて申し訳ないね。」
「いえ。そういうの嫌いじゃないです。」
さっそく割烹着と帽子とマスクを身に着けた美咲は、両手の拳を握った。
はりきってやります!のガッツポーズだ。
そして今さらながら、プロの編集者の仕事に感心する。
送られてくるチョコレートにさえ、きっちり気を配るのだ。
「それじゃ頑張ろうね。」
「はい。他に何か注意点ってありますか?」
「袋詰めの時、アーモンド入りとかお酒入りのやつはちゃんと表示するから」
「え?酒入りはわかりますけど、アーモンドも?」
「アレルギーの人とかいるからね。」
「さすが。あれ、エメラルド宛てじゃないヤツもありますね。」
「うん。一番多いのはジャプンの『ザ☆漢』のキャラ宛てかな」
そんなこんなで話をしながら、美咲は片っ端からチョコレートの包装を外していく。
狭い会議室の中は、すぐにチョコレートの香りが充満した。
出版社らしからぬ仕事ではあるが、これはこれで楽しい。
「終わったらチョコを少しだけもらって、お茶にしようね。」
律が綺麗な笑顔でそう言った。
美咲は「はい!」と元気よく答えると、チョコレートの箱に挑んでいった。
優しそうな青年に頭を下げられて、美咲は慌てて「こちらこそ」と深々と一礼する。
そして改めて見てみると、彼は超絶美人だった。
高橋美咲は、丸川書店の内定社員である。
大学はもうほとんど授業がない。
時折会社のセミナーやらOJTなどを受けながら、正式入社を待つ日々だ。
だがこの日は少々特殊な「任務」を言い渡された。
「今日はいつもとちょっと違う仕事をしてもらう。」
「はぁ。どのような?」
「××会議室に行ってくれ。指示はそこで受けてくれ。」
実に端的な説明を受けて、指定場所に赴いた美咲は面食らった。
そこで待っていたのは、白い割烹着姿の青年だった。
ビニールの帽子と手袋、そして白いマスクも着けている。
食品工場の作業員か、はたまた給食係か?
思わずそんなツッコミを入れたくなるスタイルである。
「ええと。高橋美咲君?」
青年は美咲に声をかけながら、マスクと帽子を取った。
そして「よろしくお願いします」と頭を下げる。
美咲は慌てて「こちらこそ」と深く一礼した。
そして改めて、青年を見て気付く。
彼は超絶美人だった。
「エメラルド編集部の小野寺律です。」
青年は丁寧に名乗った後、再びマスクと帽子を身に着けた。
そして美咲に「君も着てくれる?」と会議机を指差す。
そこには彼のものと同じ白い割烹着とマスク、帽子があった。
美咲は「はい」と頷き、それらを身に着けながら、部屋を見回した。
ここは10名程度で満杯になる、丸川書店の中では小さな部類の会議室だった。
机の上には大きな段ボールが数個、そしてその中には小さな包みがぎっしり入っている。
それが何なのかは聞かなくてもわかった。
今の時節柄、そして漂う甘い匂い。
ここにはものすごい数のバレンタインチョコがあったのだ。
「ええと。俺は何をすれば」
「お願いしたいのは、チョコレートの仕分けと梱包」
「へ?」
「送られてきたバレンタインチョコをチェックして、バラして、詰め直すんだ」
「はぁ」
毎年バレンタインデーには、出版社にはすさまじい数のチョコが届く。
作家宛てのものも多くある。
だがそれ以上に多いのは作品のキャラ宛てのものだ。
それらはすべて作家にお伺いを立てる。
全て送って欲しいという作家ももちろんいる。
だけど全部は無理なので、編集部で食べて欲しいという作家だっている。
別にその作家が薄情というわけではない。
結構な数なので食べきれず、捨てるくらいなら編集部のおやつにしてくれという厚意だ。
そこで今日の仕事、全てのチョコをチェックするのだ。
まず全て開封して、異変がないか確かめる。
ごくごく稀に嫌がらせのようなものもあるので、それは取り除く。
そして全部を希望する作家には、そのまま送る。
問題はいらないと答えた作家のものだ。
もしも手紙などのメッセージなどが付いていたら、それは送る。
手作りのものも同じ扱いだ。
さすがに手間暇かけた力作は作家に届けるべきと判断している。
そして市販のものは全て箱から出して、バラバラにする。
そこから数個ずつを小さな封筒状のセロファン袋に入れて、小さな包みを作るのだ。
それらは近隣の児童養護施設や子供食堂などに寄贈する。
「それは大変な作業ですねぇ」
「うん。そんなの手伝わせて申し訳ないね。」
「いえ。そういうの嫌いじゃないです。」
さっそく割烹着と帽子とマスクを身に着けた美咲は、両手の拳を握った。
はりきってやります!のガッツポーズだ。
そして今さらながら、プロの編集者の仕事に感心する。
送られてくるチョコレートにさえ、きっちり気を配るのだ。
「それじゃ頑張ろうね。」
「はい。他に何か注意点ってありますか?」
「袋詰めの時、アーモンド入りとかお酒入りのやつはちゃんと表示するから」
「え?酒入りはわかりますけど、アーモンドも?」
「アレルギーの人とかいるからね。」
「さすが。あれ、エメラルド宛てじゃないヤツもありますね。」
「うん。一番多いのはジャプンの『ザ☆漢』のキャラ宛てかな」
そんなこんなで話をしながら、美咲は片っ端からチョコレートの包装を外していく。
狭い会議室の中は、すぐにチョコレートの香りが充満した。
出版社らしからぬ仕事ではあるが、これはこれで楽しい。
「終わったらチョコを少しだけもらって、お茶にしようね。」
律が綺麗な笑顔でそう言った。
美咲は「はい!」と元気よく答えると、チョコレートの箱に挑んでいった。
1/2ページ