千秋と律の異世界物語12
「何か連れ回しちゃって、すみません。」
キッチリしたスーツ姿で、いつもより男前度が増した律が頭を下げる。
吉野は首を振り「そんな。全然」と笑った。
今日は丸川書店の漫画部門が集まる大新年会だ。
都内一流ホテルの大ホールを借り切り、関係者が一堂に会する。
作家とスタッフ、編集に営業、ゲームやアニメなど関連業界の者たちまで。
そんな大人数の中で、ひときわ目立っていたのは小野寺律だった。
モテるとは聞いていたけど、すごい。
吉野はそんな律にピッタリと寄り添いながら、それを実感していた。
ちなみに吉野がこのパーティに参加するのは、初めてではない。
毎年招待はくるが、華やかな場は苦手で逃げ回っている。
それでも完全に無視は出来ず、2、3年に1度は出席していた。
だが極力目立たないように、壁の花となっていたのだ。
そんな吉野が律に付き添っている理由は、簡単なこと。
羽鳥に命じられたからだった。
曰く「今年の新年会は小野寺をしっかり守れ」と。
昨年バカ売れした異世界漫画の作家がいれば、注目度は半減される。
律だけ無駄に目立つのが、少しは緩和される。
「一応、俺は覆面作家なんだけど」
顔写真を公表していないことを盾に、一応拒否はした。
だけどあっさり却下された。
関係者しかいない新年会、そして関係者の間ではそこそこ顔も知られている。
吉野は「ですよね~」と肩を落とし、律に寄り添うことになったのだった。
そして律は、予想以上にモテていた。
元々女性人気はあった。
もし丸川書店の独身女性社員が人気投票をしたら、おそらく1位だ。
秀麗な美貌で、身長こそ平均並みだがスタイルは良い。
しかも小野寺出版の御曹司、次期社長の可能性も高い。
つまり金も権力も美貌も、すべて持ち合わせた男なのだ。
そして今回の社長賞で、有能という要素も加わった。
お近づきになろうとする関係者は、数を増した。
なるほど、羽鳥が命じた理由がわかった。
こんな連中を全部相手にしてたら、律はヘトヘトになってしまう。
だから新年会の間中、吉野は律に付いて回った。
昨年バカ売れの異世界漫画の作者と、それを発案した功労者。
一緒にいるのは不自然ではなかった。
「何か連れ回しちゃって、すみません。」
新年会の終盤、律は吉野に頭を下げた。
笑顔を貼りつけ、挨拶回りをする苦行の時間。
吉野にとっては、これこそ異世界だ。
だけど律はカッコ良かった。
ハイブランドのスーツを着こなし、疲れも見せずに穏やかに笑っている。
「そんな。全然」
吉野は笑いながら、ブンブンと首を振った。
なぜなら吉野も助かったのだ。
人気作家の吉川千春に近寄って来る輩だっている。
だけど今回は律の傍にいたせいで、挨拶程度で済んでいた。
「今年もよろしくお願いします。」
吉野は穏やかに微笑むと、律に右手を差し出した。
律は少し驚いたようだが、すぐに握り返す。
そして今日一番の笑顔で「こちらこそ、よろしくお願いします」と返してくれた。
キッチリしたスーツ姿で、いつもより男前度が増した律が頭を下げる。
吉野は首を振り「そんな。全然」と笑った。
今日は丸川書店の漫画部門が集まる大新年会だ。
都内一流ホテルの大ホールを借り切り、関係者が一堂に会する。
作家とスタッフ、編集に営業、ゲームやアニメなど関連業界の者たちまで。
そんな大人数の中で、ひときわ目立っていたのは小野寺律だった。
モテるとは聞いていたけど、すごい。
吉野はそんな律にピッタリと寄り添いながら、それを実感していた。
ちなみに吉野がこのパーティに参加するのは、初めてではない。
毎年招待はくるが、華やかな場は苦手で逃げ回っている。
それでも完全に無視は出来ず、2、3年に1度は出席していた。
だが極力目立たないように、壁の花となっていたのだ。
そんな吉野が律に付き添っている理由は、簡単なこと。
羽鳥に命じられたからだった。
曰く「今年の新年会は小野寺をしっかり守れ」と。
昨年バカ売れした異世界漫画の作家がいれば、注目度は半減される。
律だけ無駄に目立つのが、少しは緩和される。
「一応、俺は覆面作家なんだけど」
顔写真を公表していないことを盾に、一応拒否はした。
だけどあっさり却下された。
関係者しかいない新年会、そして関係者の間ではそこそこ顔も知られている。
吉野は「ですよね~」と肩を落とし、律に寄り添うことになったのだった。
そして律は、予想以上にモテていた。
元々女性人気はあった。
もし丸川書店の独身女性社員が人気投票をしたら、おそらく1位だ。
秀麗な美貌で、身長こそ平均並みだがスタイルは良い。
しかも小野寺出版の御曹司、次期社長の可能性も高い。
つまり金も権力も美貌も、すべて持ち合わせた男なのだ。
そして今回の社長賞で、有能という要素も加わった。
お近づきになろうとする関係者は、数を増した。
なるほど、羽鳥が命じた理由がわかった。
こんな連中を全部相手にしてたら、律はヘトヘトになってしまう。
だから新年会の間中、吉野は律に付いて回った。
昨年バカ売れの異世界漫画の作者と、それを発案した功労者。
一緒にいるのは不自然ではなかった。
「何か連れ回しちゃって、すみません。」
新年会の終盤、律は吉野に頭を下げた。
笑顔を貼りつけ、挨拶回りをする苦行の時間。
吉野にとっては、これこそ異世界だ。
だけど律はカッコ良かった。
ハイブランドのスーツを着こなし、疲れも見せずに穏やかに笑っている。
「そんな。全然」
吉野は笑いながら、ブンブンと首を振った。
なぜなら吉野も助かったのだ。
人気作家の吉川千春に近寄って来る輩だっている。
だけど今回は律の傍にいたせいで、挨拶程度で済んでいた。
「今年もよろしくお願いします。」
吉野は穏やかに微笑むと、律に右手を差し出した。
律は少し驚いたようだが、すぐに握り返す。
そして今日一番の笑顔で「こちらこそ、よろしくお願いします」と返してくれた。
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