千秋と律の異世界物語11
「今年の社長賞は、お前な」
軽い口調で告げられた律は「はぇ?」と間抜けな声を上げる。
だが次の瞬間、辺りをキョロキョロと見回した。
年内最後の地獄の入稿が終わった。
いつもの通り、エメラルドの編集部員たちはボロボロだ。
予定時間は大幅に過ぎ、そろそろ他部署の社員が出勤してくる時間だ。
律はフラフラと立ち上がり、帰宅準備を始めたのだが。
「小野寺、帰る前に社長室に行け」
編集長の高野に無造作に告げられた律は「何で?」と声を上げた。
理由は2つ。
まずこんな修羅場明けのヘロヘロな時に行きたくないこと。
そしてそもそも呼ばれる理由が思いつかないことだ。
だけど高野は「さっさと行け」と容赦ない。
問答無用と言うことか。
律は首を傾げつつ、まずは化粧室に飛び込んだ。
そして鏡を見ながら、最低限の身だしなみを整える。
できればこのまま逃亡したいが、社畜の身でそれは無理だろう。
「おはようございます。エメラルド編集部の小野寺です。」
重い足取りで向かった社長室のドアを数回ノックし、入室する。
すると律とは対照的に、すっきり爽やかなイケメン2人が待っていた。
社長の井坂龍一郎と秘書の朝比奈薫である。
「よぉ。朝から悪いな。」
井坂が笑顔で律を迎え入れ、接客用のソファに座る。
そして真向いのソファを手で示した。
座れということだろう。
律は「失礼します」と一礼して、腰を下ろす。
すると朝比奈が影のように、井坂の背後に立った。
「疲れてるんだろうから、用件だけ手短に言うよ。」
律は井坂の言葉を聞きながら、口調と態度にホッとする。
どうやらお叱りではないらしい。
そして締切明けだというこちらの事情も考慮してくれているようだ。
事前に日程を知っているのか、ヘロヘロ具合がバレているのか。
疲れた身体でそんなことを考えていたところで、事件は起こった。
「今年の社長賞は、お前な」
井坂は軽い口調で、予想外の爆弾を落とした。
律は「はぇ?」と間抜けな声を上げる。
だが次の瞬間、辺りをキョロキョロと見回した。
「何やってんだよ?」
「いや、ドッキリか何かかと。思わずカメラを捜しちゃいました。」
「何で芸能人でもないお前のドッキリ動画を撮るんだよ?」
「だって社長賞なんて、あり得ないから。」
予想外の律の言動に、井坂が「お前、面倒なヤツだな」と苦笑する。
わざわざ社長室に呼んで、そんなドッキリを仕掛けるはずがない。
井坂と朝比奈で何度も本当だと連呼し、ようやく律を納得させる。
そして「年末の編集長会議で、正式発表だから」と締めくくった。
「でさ、何か希望があったら聞くよ?」
「希望ですか?」
「ああ。昇給とか昇格とか?一応社長賞の副賞かな。」
「副賞。。。」
本当に社長賞をもらえるのか。
その事実をようやく受け入れた律は、副賞と言われてもすぐに頭が回らない。
だけど欲しいものを問われれば、答えは1つだ。
律はコホンと1つ咳払いをすると、おもむろに口を開いた。
軽い口調で告げられた律は「はぇ?」と間抜けな声を上げる。
だが次の瞬間、辺りをキョロキョロと見回した。
年内最後の地獄の入稿が終わった。
いつもの通り、エメラルドの編集部員たちはボロボロだ。
予定時間は大幅に過ぎ、そろそろ他部署の社員が出勤してくる時間だ。
律はフラフラと立ち上がり、帰宅準備を始めたのだが。
「小野寺、帰る前に社長室に行け」
編集長の高野に無造作に告げられた律は「何で?」と声を上げた。
理由は2つ。
まずこんな修羅場明けのヘロヘロな時に行きたくないこと。
そしてそもそも呼ばれる理由が思いつかないことだ。
だけど高野は「さっさと行け」と容赦ない。
問答無用と言うことか。
律は首を傾げつつ、まずは化粧室に飛び込んだ。
そして鏡を見ながら、最低限の身だしなみを整える。
できればこのまま逃亡したいが、社畜の身でそれは無理だろう。
「おはようございます。エメラルド編集部の小野寺です。」
重い足取りで向かった社長室のドアを数回ノックし、入室する。
すると律とは対照的に、すっきり爽やかなイケメン2人が待っていた。
社長の井坂龍一郎と秘書の朝比奈薫である。
「よぉ。朝から悪いな。」
井坂が笑顔で律を迎え入れ、接客用のソファに座る。
そして真向いのソファを手で示した。
座れということだろう。
律は「失礼します」と一礼して、腰を下ろす。
すると朝比奈が影のように、井坂の背後に立った。
「疲れてるんだろうから、用件だけ手短に言うよ。」
律は井坂の言葉を聞きながら、口調と態度にホッとする。
どうやらお叱りではないらしい。
そして締切明けだというこちらの事情も考慮してくれているようだ。
事前に日程を知っているのか、ヘロヘロ具合がバレているのか。
疲れた身体でそんなことを考えていたところで、事件は起こった。
「今年の社長賞は、お前な」
井坂は軽い口調で、予想外の爆弾を落とした。
律は「はぇ?」と間抜けな声を上げる。
だが次の瞬間、辺りをキョロキョロと見回した。
「何やってんだよ?」
「いや、ドッキリか何かかと。思わずカメラを捜しちゃいました。」
「何で芸能人でもないお前のドッキリ動画を撮るんだよ?」
「だって社長賞なんて、あり得ないから。」
予想外の律の言動に、井坂が「お前、面倒なヤツだな」と苦笑する。
わざわざ社長室に呼んで、そんなドッキリを仕掛けるはずがない。
井坂と朝比奈で何度も本当だと連呼し、ようやく律を納得させる。
そして「年末の編集長会議で、正式発表だから」と締めくくった。
「でさ、何か希望があったら聞くよ?」
「希望ですか?」
「ああ。昇給とか昇格とか?一応社長賞の副賞かな。」
「副賞。。。」
本当に社長賞をもらえるのか。
その事実をようやく受け入れた律は、副賞と言われてもすぐに頭が回らない。
だけど欲しいものを問われれば、答えは1つだ。
律はコホンと1つ咳払いをすると、おもむろに口を開いた。
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