千秋と律の異世界物語9

「すみません。知恵を貸してください!」
吉野は単刀直入に勢いよく頭を下げる。
律はその勢いに若干引きつつも「善処します」と苦笑した。

吉川千春の異世界漫画の連載が終わった。
だけどヒットは続いていた。
アニメ化に続き、実写ドラマ化。
そのうちアニメの映画化も決まり、舞台化も決まった。
そうなれば、漫画もさらに売れる。
ファンも楽しんでくれるし、みんなで万々歳だ。

だが吉野は人知れず疲れていた。
媒体が増えれば、イベントも増える。
そうなると「おまけ」が必要になる。
いわゆる「限定配布」やら「特典映像」などのことだ。
数ページの短い漫画や、数分程度の映像。、
短い作品の量産が必要になるのだ。

吉野は頑張った。知恵を絞った。
そして出来上がった小ネタたち。
ファンミーティングで配られるミニ冊子。
DVDにつけられる特典映像。
映画館で配られる限定漫画。
とにかくいろいろ作った。

だが絞り切ったと思ったところで、最大級のものが来た。
数話程度、コミックス1巻分の番外編を描けというのだ。
せっかくヒットしているのだし、もう少し便乗してやれという意図だ。
吉野としては大変嬉しいけれど、ネタを思いつけない。

そこで呼び出されたのが、小野寺律だった。
何だかんだで、吉野の異世界漫画のきっかけにもなった人物。
そして吉野が「異世界の師」と仰いですらいる。
彼なら良いアイディアをくれるのではないか。
そう思った吉野は羽鳥に頼んで、律を会議室に呼び出してもらったのだ。

「すみません。知恵を貸してください!」
吉野は単刀直入に勢いよく頭を下げる。
律はその勢いに若干引きつつも「善処します」と苦笑した。
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