千秋と律の異世界物語7

「アニメ化、決まりました!」
吉野は満面の笑みで報告する。
律は一瞬驚いたが、すぐに「おめでとうございます」と頭を下げた。

吉川千春の異世界漫画は大ヒットしていた。
いろいろな異世界あるあるを詰め込みながら、独自の面白さもある。
単行本の売れ行きは良好。
アンケートの順位も1位をキープし続けた。

そこへきて、ついにアニメ化である。
それを聞いた吉野は大いに喜んだ。
もちろん作品がアニメ化されるのは、初めてではない。
だけどやはり嬉しい。
自分の描いた絵が鮮やかに色づき、動くのは楽しみだ。

アニメ化の一報を受けた翌日、吉野はエメラルド編集部を訪れた。
羽鳥との打ち合わせのついでではあるが、律に会いに来たのだ。
この異世界漫画のヒットは、律の協力によるところが大きい。
だから是非とも直接、礼が言いたかったのだ。

事前に羽鳥に予定は聞いている。
だから律は自分の席で、パソコンに向かって仕事をしていた。
吉野はツカツカと、律に歩み寄る。
そして勢いよく「ありがとうございました!」と頭を下げた。

「アニメ化、決まりました!」
吉野は満面の笑みで報告した。
律は一瞬驚いた顔になる。
アニメ化されることではない。
なぜならそれはもう聞かされていたから。
単純にいきなり隣で大きな声で告げられたことに驚いたのだ。

「おめでとうございます」
律は席を立つと、頭を下げた。
吉野は「小野寺さんのおかげです~!」と告げる。
いつになくテンションが高い。
それほど嬉しかったのだ。

だから吉野は気付かなかった。
律が吉野ほど、浮かれていないことに。
でも吉野の心はすでにアニメ化される異世界に飛んでいる。
こうしてかすかなすれ違いを残したまま、吉野は打ち合わせに向かった。
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