千秋と律の異世界物語6

『りっちゃん、おつかれさま』
スマホでメッセージを読んだ律が、思わず頬を緩める。
それはかつての婚約者であり、今は幼なじみの女性からのものだった。

会社から帰った律は、くつろいでいた。
少し前までは締め切りという名の修羅場だった。
でも今回も乗り越え、無事に本が出た。
だから今は少しだけのんびりできる時期。
優雅にコンビニスイーツを味わおうとしたとき、メッセージが来たのだ。

『りっちゃん、おつかれさま』
『月刊エメラルド、買ったよ』
『今月もおもしろかった』
『吉川千春の異世界漫画、これから楽しみ』

次々と現れる杏からのメッセージに、律の頬が緩んだ。
いろいろあって、ようやく始まった吉川千春の新連載。
王道の恋愛ばかり描いてきた作家が、毛色の違う異世界作品に挑んだ。
このことが話題を呼び、読者の間では盛り上がっている。

「読んでくれて、ありがとう」
「吉川先生にも伝えておくね」
「きっと喜ぶと思うよ」

律はすぐに返事を送った。
幼なじみの杏は、エメラルドの愛読者だ。
こうして本が出るたびに、メッセージをくれるのが嬉しい。
ほっこりしていたところで、一撃が来た。

『私、思ったんだけど』
『吉川千春の異世界漫画のヒロイン』
『何かりっちゃんに似てない?』

メッセージを読んだ律は「うわ」と声を上げる。
だがメッセージアプリなら、表情はバレない。
すぐに「そう?」「気のせいじゃない?」と返した。
だけど内心「杏ちゃん、鋭い」と冷や汗をかいていた。
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