千秋と律の異世界物語4

「そりゃ、盛り過ぎだろう」
羽鳥はきっぱりと断言した。
吉野がおねだりするように目をウルウルさせているが、無理なものは無理だ。

吉野と羽鳥、そして編集長の高野は丸川書店の会議室にいた。
何だかんだで羽鳥が折れて、吉川千春の次回作は異世界漫画に決まった。
その詳細の打ち合わせである。
本来ならそんな場に編集長が居合わせることはない。
だけど今回は特別だ。
看板作家が今までとは違うテイストの作品を描く。
これは月刊エメラルドにも、大きな影響があると考えたのだ。

ちなみにこの場には、小野寺律も呼ばれていた。
何回か行われた、吉野と律の異世界トーク。
これがこの新しい試みのベースとなるからだ。
それにおそらく異世界モノの読書量は、律が一番多い。
オブザーバーとして、適任と判断されたのだ。
だが律は律で自分の担当作家との打ち合わせがあり、少し遅れている。

「小野寺はまだですけど、先に始めましょう。」
羽鳥は打ち合わせの始まりを告げる。
そして高野が頷くのを見て「吉野」と話を振った。
まずは作家が描きたい大まかなイメージを聞く。
そこから意見を述べ、筋書きを作り上げるのだ。

「はい。それじゃ」
吉野は若干緊張した面持ちで、口を開いた。
こういう改まった場で話すのが得意でないのだ。
でも羽鳥も高野もそれは承知している。
だから少々まとまりのない吉野の話を、辛抱強く聞いていたのだが。

吉野は語った。
嬉々として、最初は少々ぎこちなく、だが次第に力強く。
話しているうちに緊張が解け、だんだん熱が加わってきたのだろう。
熱量が多いのは、大いに結構。
だけど話が長い、長過ぎる。
吉野は描きたいテーマを思いつくままに喋っているのだ。

「そりゃ、盛り過ぎだろう」
羽鳥は呆れながら、きっぱりと断言した。
いろいろ描きたい気持ちが止まらないらしい。
だからとりあえず否定コメントを吐いた羽鳥を悲しそうに見ている。

だけど羽鳥は首を振った。
衝動のままに突っ走るわけにはいかない。
できないことはできないとしっかり判断するのも、編集者の仕事だ。
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