千秋と律の異世界物語2

「タイムリープってどう思います?」
吉野は真面目な顔で、グイっと身を乗り出してくる。
律はその剣幕に少々ビビりながら「タイムリープですか?」と聞き返した。

小野寺律が吉川千春こと吉野千秋と異世界話をしたのは、少し前のこと。
吉野は新連載で異世界モノを描きたいと思った。
だけど担当編集の羽鳥のノリはよろしくない。
そんなとき、偶然にも吉野と律が2人になる時間があったのだ。
吉野は相談半分愚痴半分で、律に現状を打ち明けた。
そしていつしか異世界小説&漫画あるある大会になり、大いに盛り上がった。

吉野は律と話をした内容をさらに吟味し、再び羽鳥に話を持ち掛けた。
前回よりは具体的に、描きたい内容を伝えられたと思う。
だがそれでもやはり羽鳥は首を縦に振ってくれない。
何が足りないのだろうと思って、ふと思いついたのだ。
異世界の定番の1つ、タイムリープの話をしていなかった!

そこで吉野は打ち合わせの後、再び律を呼んでもらった。
場所は丸川書店の会議室だ。
律は担当編集でもなければ、暇でもない。
それでも笑顔で応じてくれたのは、感謝しかない。
そして2人きりになるなり、話を切り出したのだ。

「タイムリープってどう思います?」
「タイムリープですか?」
「はい。定番だと思うんですけど」
「確かに定番なのに、前回は抜けてましたね。」

律は唐突な問いに少々驚いたものの、すぐに考え込んだ。
タイムリープ、すなわち時を遡ること。
一番すぐに思いつくのは、あの有名な少年漫画だ。
主人公はヤンキー中学生で、恋人が抗争に巻き込まれて殺されてしまう。
それを防ぐために何度も時を遡り、人生にリベンジする。
もっともあれは異世界モノではないから、今回の参考にはならないが。

「ヒロインが理不尽な目にあって、過去に遡ってやり直す感じですよね。」
「そう、それです!」
「多いのは王か王子に婚約破棄されて、冤罪で処刑されるパターンかな?」
「そう、ですね。それが多いかな」

律に具体的な例を持ち出したところで、吉野のトーンが下がった。
確かにタイムリープ話の多くは、主人公が最低一度は死んでいる。
そして生き返って時を遡り、報復するのが定番だ。
ここで1つ、問題が発生した。

吉野の作品は王道の恋物語が多い。
そして作風は男性が描いているとは思えないほど、ふんわり柔らかい。
つまりイメージが合わない気がするのだ。
物語の序盤とはいえ、処刑なんて過酷なシーンはいかがなものか。

「あとタイムリープって制裁が過激なものが多い気がしますけど。」
「せいさい?」
「ええと、世にいう『ざまぁ』ってヤツです。」

吉野は「ざまぁ?」と首を傾げている。
律は穏やかに微笑しながら「はい。ざまぁです」と頷いた。
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