千秋と律の異世界物語1
「異世界をテーマにした漫画ってどう思います?」
吉野は言ってしまってから「しまった」と思う。
聞く相手が違う気がする。
だけど目の前の美青年は「異世界ですか」と真っ直ぐに受け止めていた。
吉川千春こと吉野千秋は、丸川書店の会議室にいた。
担当編集である羽鳥と打ち合わせをするためだ。
現在月刊エメラルドで連載中の漫画はいよいよ終盤に差し掛かっている。
ラストまでどんな風に持っていくか、その最終確認である。
「だいたいイメージは固まったな。」
今後のストーリー展開をまとめたところで、羽鳥が締めくくる。
吉野は「うん。そうだね」と頷いた。
大筋の確認ができたから、後はひたすら書き進めるだけだ。
吉野はホッと安堵のため息をつく。
そしてそのノリで「次回作は異世界とか描きたいなぁ」と呟いた。
最近流行の異世界小説。
今は投稿サイトが多くあり、レベルの高い作品が無料で読める。
吉野は執筆の合間に小説を読んだり、コミカライズやアニメを見るのにハマっていた。
ちなみに今連載しているのは、現在日本の女子高校生の恋物語。
次は是非とも、ガラッと雰囲気を変えた異世界モノに挑みたい。
だが羽鳥は不機嫌そうに眉をひそめて、ため息をついた。
「次回作なんてまだ先だ。今の連載に集中しろ」
羽鳥に冷たく言い放たれ、吉野はムッとした。
別に今の連載をおろそかにしようなんて思っていない。
全力でやりつつ、次回作のことをチラリと考えるだけだ。
言い返そうとして、口を開いたところで、コンコンとドアが控えめにノックされた。
そして「失礼します」の声と共に、顔なじみの編集者が入って来た。
「打ち合わせ中にすみません。羽鳥さん、横澤さんが確認したいことがあるそうです。」
申し訳なさそうに告げたのは、小野寺律。
羽鳥の後輩編集者である。
どうやら予定時間を過ぎても戻らない羽鳥を呼びに来たらしい。
「わかった。企画書の件だな。」
羽鳥は律に頷くと、じっと吉野を見た。
言葉はなくても、わかる。
今の連載に集中しろ。
羽鳥は視線だけで吉野に念押しをして、会議室を出て行った。
「すみません。割り込んでしまって」
残された律が、吉野に頭を下げる。
吉野は「いえ」と笑顔を作るが、内心は割り切れない。
せっかくの次回作の話を、羽鳥にぶった切られたのが気に入らないのだ。
このまま帰るのも癪だと思った瞬間、吉野は律に声をかけていた。
「異世界をテーマにした漫画ってどう思います?」
吉野は言ってしまってから「しまった」と思った。
担当編集でもない相手に振る話ではない。
だけど律は「異世界ですか」と真剣な表情で考え込む。
そして数秒の沈黙の後、ニッコリと笑った。
「異世界の定番なら、婚約破棄ですかね?」
律が遠慮がちに答えをくれた瞬間、吉野は思わず拳を突き上げていた。
同志発見。おそらく彼も異世界モノ好きに違いない!
吉野は瞳をキラキラさせながら「いいですね!」と前のめりになっていた。
吉野は言ってしまってから「しまった」と思う。
聞く相手が違う気がする。
だけど目の前の美青年は「異世界ですか」と真っ直ぐに受け止めていた。
吉川千春こと吉野千秋は、丸川書店の会議室にいた。
担当編集である羽鳥と打ち合わせをするためだ。
現在月刊エメラルドで連載中の漫画はいよいよ終盤に差し掛かっている。
ラストまでどんな風に持っていくか、その最終確認である。
「だいたいイメージは固まったな。」
今後のストーリー展開をまとめたところで、羽鳥が締めくくる。
吉野は「うん。そうだね」と頷いた。
大筋の確認ができたから、後はひたすら書き進めるだけだ。
吉野はホッと安堵のため息をつく。
そしてそのノリで「次回作は異世界とか描きたいなぁ」と呟いた。
最近流行の異世界小説。
今は投稿サイトが多くあり、レベルの高い作品が無料で読める。
吉野は執筆の合間に小説を読んだり、コミカライズやアニメを見るのにハマっていた。
ちなみに今連載しているのは、現在日本の女子高校生の恋物語。
次は是非とも、ガラッと雰囲気を変えた異世界モノに挑みたい。
だが羽鳥は不機嫌そうに眉をひそめて、ため息をついた。
「次回作なんてまだ先だ。今の連載に集中しろ」
羽鳥に冷たく言い放たれ、吉野はムッとした。
別に今の連載をおろそかにしようなんて思っていない。
全力でやりつつ、次回作のことをチラリと考えるだけだ。
言い返そうとして、口を開いたところで、コンコンとドアが控えめにノックされた。
そして「失礼します」の声と共に、顔なじみの編集者が入って来た。
「打ち合わせ中にすみません。羽鳥さん、横澤さんが確認したいことがあるそうです。」
申し訳なさそうに告げたのは、小野寺律。
羽鳥の後輩編集者である。
どうやら予定時間を過ぎても戻らない羽鳥を呼びに来たらしい。
「わかった。企画書の件だな。」
羽鳥は律に頷くと、じっと吉野を見た。
言葉はなくても、わかる。
今の連載に集中しろ。
羽鳥は視線だけで吉野に念押しをして、会議室を出て行った。
「すみません。割り込んでしまって」
残された律が、吉野に頭を下げる。
吉野は「いえ」と笑顔を作るが、内心は割り切れない。
せっかくの次回作の話を、羽鳥にぶった切られたのが気に入らないのだ。
このまま帰るのも癪だと思った瞬間、吉野は律に声をかけていた。
「異世界をテーマにした漫画ってどう思います?」
吉野は言ってしまってから「しまった」と思った。
担当編集でもない相手に振る話ではない。
だけど律は「異世界ですか」と真剣な表情で考え込む。
そして数秒の沈黙の後、ニッコリと笑った。
「異世界の定番なら、婚約破棄ですかね?」
律が遠慮がちに答えをくれた瞬間、吉野は思わず拳を突き上げていた。
同志発見。おそらく彼も異世界モノ好きに違いない!
吉野は瞳をキラキラさせながら「いいですね!」と前のめりになっていた。
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