千秋と律のアフターバレンタイン
「チョコレートって、凶器だったんですね。」
吉野は呆れた声で、そう言った。
律も「はい」と頷きながら、懸命に気持ちを奮い立たせようとしていた。
2月15日、言わずと知れたバレンタインデーの翌日。
吉野と律は、丸川書店内の会議室の1つにいた。
最大で20名程度までの会議ができる、まぁまぁそこそこ広い部屋だ。
だが今日に限っては、積み上げられた箱によって妙に狭く感じる。
「本当にいいんですか?吉野さん」
律は申し訳なさそうに、最後の確認をした。
いや本当に、心の底から申し訳ないと思っていた。
こんな疲れる作業に、人気作家を付き合わせていいのかと。
だが吉野は「やります!」と元気よく答えた。
発端はバレンタインデー、送られてきた大量のチョコレートだった。
漫画編集部にとって、恨めしいイベントの1つだ。
なぜならとにかく編集部には、とにかく大量のチョコレートが届くのだ。
作家宛てだけでも、かなりの数になる。
その上に、漫画に登場するキャラ宛てに届いたりなんかもするのだ。
ちなみに吉川千春と、連載中の漫画のキャラ宛てだけで軽く100個を超える。
編集部宛てに届いたチョコレートは、どうするか作家に「お伺い」を立てる。
いきなり大量に送り付けられても、困るだろうからだ。
案の定というべきか、律の担当の作家のほぼ全員がそちらで処理してもらえないかと言ってきた。
とても食べきれる量じゃないし、わざわざ送料をかけて送っても捨てることになってしまうと。
そこへ編集部員宛てのチョコレートも拍車をかける。
イケメン揃いのエメラルド編集部は、とにかくモテるからだ。
そんなこんなで、総数が1000の単位まで増えてしまったチョコレートをどうするか。
さすがに捨ててしまうのは、気が咎める。
頭を悩ませた挙句に、考え付いたのは寄付だった。
幼稚園とか、養護施設とか、子供がたくさんいて喜ばれる場所に貰ってもらえればいい。
よしと気合いを入れて、いくつかの施設に連絡を入れてみる。
するとそういう事情ならぜひと言ってくれるところが、いくつも見つかった。
だが律のこの計画を知り、別の意味で便乗する者もあらわれた。
まずエメラルド編集部の先輩たちが、自分たちのチョコレートも寄付に入れてくれと言い出した。
次に営業部の逸見が「営業部の分、お願いします」と言い出した。
その数はあまり多くなかったので、律は軽い気持ちで「いいですよ」と答えてしまった。
サファイアの編集長から「うちのもいい?」と言われた時、営業の分をOKしてしまった手前、ことわれなくなったのだ。
ジャプン編集部の加藤が「うちのもお願いします」と頼まれた時には、絶望的な気分になった。
チョコレートの数は、エメラルドの倍を軽く超えるからだ。
それでも言い出したからには、もう後には引けない。
律は意を決して、この案件に全力で取り組むことにした。
吉野は呆れた声で、そう言った。
律も「はい」と頷きながら、懸命に気持ちを奮い立たせようとしていた。
2月15日、言わずと知れたバレンタインデーの翌日。
吉野と律は、丸川書店内の会議室の1つにいた。
最大で20名程度までの会議ができる、まぁまぁそこそこ広い部屋だ。
だが今日に限っては、積み上げられた箱によって妙に狭く感じる。
「本当にいいんですか?吉野さん」
律は申し訳なさそうに、最後の確認をした。
いや本当に、心の底から申し訳ないと思っていた。
こんな疲れる作業に、人気作家を付き合わせていいのかと。
だが吉野は「やります!」と元気よく答えた。
発端はバレンタインデー、送られてきた大量のチョコレートだった。
漫画編集部にとって、恨めしいイベントの1つだ。
なぜならとにかく編集部には、とにかく大量のチョコレートが届くのだ。
作家宛てだけでも、かなりの数になる。
その上に、漫画に登場するキャラ宛てに届いたりなんかもするのだ。
ちなみに吉川千春と、連載中の漫画のキャラ宛てだけで軽く100個を超える。
編集部宛てに届いたチョコレートは、どうするか作家に「お伺い」を立てる。
いきなり大量に送り付けられても、困るだろうからだ。
案の定というべきか、律の担当の作家のほぼ全員がそちらで処理してもらえないかと言ってきた。
とても食べきれる量じゃないし、わざわざ送料をかけて送っても捨てることになってしまうと。
そこへ編集部員宛てのチョコレートも拍車をかける。
イケメン揃いのエメラルド編集部は、とにかくモテるからだ。
そんなこんなで、総数が1000の単位まで増えてしまったチョコレートをどうするか。
さすがに捨ててしまうのは、気が咎める。
頭を悩ませた挙句に、考え付いたのは寄付だった。
幼稚園とか、養護施設とか、子供がたくさんいて喜ばれる場所に貰ってもらえればいい。
よしと気合いを入れて、いくつかの施設に連絡を入れてみる。
するとそういう事情ならぜひと言ってくれるところが、いくつも見つかった。
だが律のこの計画を知り、別の意味で便乗する者もあらわれた。
まずエメラルド編集部の先輩たちが、自分たちのチョコレートも寄付に入れてくれと言い出した。
次に営業部の逸見が「営業部の分、お願いします」と言い出した。
その数はあまり多くなかったので、律は軽い気持ちで「いいですよ」と答えてしまった。
サファイアの編集長から「うちのもいい?」と言われた時、営業の分をOKしてしまった手前、ことわれなくなったのだ。
ジャプン編集部の加藤が「うちのもお願いします」と頼まれた時には、絶望的な気分になった。
チョコレートの数は、エメラルドの倍を軽く超えるからだ。
それでも言い出したからには、もう後には引けない。
律は意を決して、この案件に全力で取り組むことにした。
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